BOOK1

□掌
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眠っているミノを確認して、ジョンヒョンは少しだけその前髪をかきあげるように指に絡めた。少しパーマのかかった柔かい髪が指をすり抜けていく。

けっして凛々しくはない、あどけないようなその寝顔に、ジョンヒョンは少し頬を緩めてわらった。

いつからこんなに好きになってしまったんだろう・・

疑問符はいつも飲み込むように消してた。新芽のようにぽこぽこ出てきてはもぎ取ってを繰り返していく思考にも、最近疲れてきた。


いい加減認めてしまおうか。


ジョンヒョンは寝顔を見てしばし考える。

考えて考えて、そうしてだんだんコイツのおでこをベシ、と叩いてやりたい衝動に駆られて、ジョンヒョンはそこで考えるのをやめた。


いつまでも好きでいてくれるな。

いつまでもすきなものか。

いつかは・・好きでなくなるのか・・・?

ジョンヒョンはそこでまた浮かんだ疑問符を頭の中で消した。そうやって考えるからいけない。


いっときの感情に飲み込まれてしまったら、あとあときっと酷く後悔する。それが自分だとわかっている。将来性もない、生産性もない、未来もない、あてもない今だけのためにすべてを棒にふれるほど俺はもう若くもない。

コイツが俺のすべてになってしまったら、俺は正気でステージの上になんか立てないだろう。

黄色い声に応えて手を振るあいつを遠くで見つめて、俺はギュッと心臓が痛くなる。そんなのは嫌だから。俺はやっぱりこの先を考えないことにする。

綺麗な奥さんをもらって、結婚してできたあいつの子供に、俺は歌を謡ってやろう。そういう幸せな未来のことだけを考えよう。


そうしたら、



ぽたりと泪がこぼれた。






【掌】


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