BOOK1
□雪
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「ジョンヒョン、こっちとこっち、どっちがいいと思う?」
「そっち」
「あてんなんねーな〜」
そう言いながら、キボムは笑いながらストールを巻きなおしていく。
片手に持ったストールをしまいに部屋に戻りながら。
ジョンヒョンはまた筋トレをはじめる。腕立て伏せを数えていたストップウォッチを元に戻して、ジョンヒョンはまた数を数え始める。
「わぁ〜ミノ、ずいぶん腹筋ついたね」
「サボってたぶん取り戻したんで」
「ドラマはさぼってたに入らないよ」
キボムはにこにこ笑いながら、ミノの腹筋をぺたぺたと触っていく。
ジョンヒョンはからだを上下に揺らしながら床に汗を落とす。
keyはそれから、今日はどこに出掛けるんだとか、昨日は自転車に乗ったから今日は歩きで行くとか、何時には帰るから夕飯のしたくはしなくていいとか、そんなことをミノと話して、玄関の方へと歩いて行った。
外に出て行ったkeyを見送ったミノが、ジョンヒョンのいる部屋に戻ってくると、ジョンヒョンはもう腕立て伏せを終わりにしていた。
「今日の分はおわったんですか?」
「まぁな」
ミノが部屋にやってくると、ジョンヒョンは早々に切り上げて部屋を出て行こうとする。
ストップウォッチを手にもってドアを開けようとするジョンヒョンの空いた片手を、ミノはパシン、と掴んだ。
「なんでいつも逃げるんですか」
「逃げてなんか」
「僕と話をするのが嫌なんですか」
「話す事がないだけだよ」
「話す・・こと、なんて・・・」
言いながらグンッ、と腕を引っぱってみたけど、ジョンヒョンは微動だにしなかった。
仕方ないのでミノがそっと近づいて彼の後ろに立ってからだをくっつける。
ジョンヒョンの体が一瞬びくりと揺れた気がしたけど、彼はそのまま何も動かなかった。
「・・・こうしているだけじゃ・・・だめなんですか・・」
ミノは掴んでいた腕を解いて、彼を後ろから抱きしめてみた。
ジョンヒョンはまだ何も言わない。否定も、反抗もしない。
ミノはぎゅうっと彼を抱きしめる腕の力を強めてみた。
「・・・なぁ、」
そうしたら声が返ってきた。
「はい?」
「なんで・・・・俺なの?」
「理由・・・ですか?」
彼は黙ってる。
「好きになることに・・・理由って必要ですか?ただ純粋に惹かれていっただけでは答えにならないんですか、あなたのその声や・・仕草や・・優しさに触れて、僕はあなたを好きになった・・」
続ける言葉に戸惑ってると、ジョンヒョンの指が、そっと彼の腕に触れた。
それから、包むように、抱きしめたミノの腕の上に、ジョンヒョンの手の平がかぶさる。
「ヒョン・・・・?」
じんわりと伝わる体温のあたたかさ。
ミノは、雪の日にほっぺたにあてられた彼の手の平のことを思い出していた。
「ヒョン・・、?」
彼はただ黙って。愛しむように、ミノの腕をただぎゅうっと、抱きしめた。
瞳を閉じてしばらくそうしたあと、我に返ったようにその手を解いて。
ジョンヒョンはまた何事もなかったようにミノから離れた。
「僕、待てますからね・・・・?」
ミノは、はなれていくジョンヒョンの背中に向ってはっきりと言った。
年下の僕に甘える事が、今のあなたにとって難しくても。
「ヒョンが僕のことを好きだって・・・・僕ちゃんとわかってますからね」
念を押すように言った言葉に、ジョンヒョンは否定も反論もしなかった。ただ何も言わないって事は、彼の中で肯定なんだって。
ミノはちゃんと知ってる。
春はすぐそこ。
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