BOOK1
□世界のつづき
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「オニュヒョンの、いくじなし・・っ!」
入ろうとしていた楽屋のドアノブを握るよりも早く、開いた扉から飛び出してきた青年を見送って立ち止まったオレと、つまりその彼に用事のあったカイは、互いに見詰め合って「どうする?」と考えた末に、元来た道を引き返した。
【世界のつづき】
カイはおそらく、知らなかった・・みたいだった。
テミン自身も、そういうことを言わない性格だったのだろう。
ドアノブを握るよりも前に、楽屋の中から聴こえていた言葉。
「どうして?ヒョンは僕のこと好きじゃないの?」
「そうじゃない・・よ、テミナ・・」
「キス・・・してよ・・・
オニュヒョンの、いくじなし・・っ!」
たったそれだけの言葉でも。
聴く人が聞けばなんとなくわかってしまう・・・おそらく、カイにも。
きっと今回の言葉で伝わったんだと思う。
カイはぼんやりと、会場の2階の非常用の出口から外に出たところの手摺に掴まって外を見てた。
会場に入るために集まった人たちのにぎやかな声。外は曇り空なのに、心がざわつくようなにおいがする。
「あれっ、こんなところに居た!」
にっこりと笑って、ベクヒョンが顔を出す。ひょこっとからだを揺らして。ドアから顔を覗かせるベッキョン。
オレが手を振って駆け寄ろうとした時、カイはまだ手摺りを掴んだままだった。今にも「あーっ」と言ってしまいそうなカイを置いていくかどうか戸惑い、足を止めて振り返ろうとした時。
「よしっ・・いくかっ」
カイはオレの肩をぽんっと叩いた。
それは、何か吹っ切ったような声だったのか…。今のオレには定かには覚えてない。
「どうしたの?」
「ん?・・あ・・ちょっと、ね」
「変なチャニョル」
「へんではないですヨ」
ふふっ、と笑うベクヒョンに吊られて、一緒に笑う。
「んん。なぁ‥ベッキョン、」
「ん?なに?」
ベクヒョンが。驚いたような目をしてオレを見て立ち止まった。オレも一緒に立ち止る。
見つめあったままの穏やかな時間の流れ。
「・・・オレやっぱ・・ベッキョンのこと、好きだわ」
「・・・知ってるよ?」
「たぶん、ベッキョンが思ってる以上に・・」
変わらない表情でオレを見ているベクヒョンに、オレは言いかけてた言葉を飲み込んで、ギュッと唇を結んだ。
なんだか急に。想いが早急過ぎたんじゃないかって、こわくなった。
こんなことを急に言い出すなんて・・想いを伝えられずに叶わなかった誰かをみてしまったせいだろうか?
身近に・・恋してると知った先輩を見てしまったからだろうか?
戸惑っていると、
ベクヒョンがカツン、と前に歩み寄ってきた。
「ねぇ、・・・キス、してよ」
「・・・・・え、?」
「できないの?」
「いや、え・・でも・・っ」
「いくじな・・」
言葉は、動く方が先で、さいごまで聞かなかった。
条件反射のように腕が伸びてて。気が付けば左手を優しく添えるように、
キスしてた。
「・・・チャニョルの唇って・・・やわらかいんだね・・」
ゆっくりと唇を離すオレに、ベクヒョンはそう言って小悪魔みたいに笑うんだ。
「どうしてそう・・っ」
「ふふっ」
オレが複雑な思いを抱いてたって、ベクヒョンはいつだって余裕な顔で横をすり抜けてく。
オレは、平気な顔して通り過ぎていくベクヒョンを追いかけて肩を掴む。
「きょ・・今日は止まってやれな・・い、かもしれな・・い、っすよ?」
「・・いい、っすよ?」
ベクヒョンはふふっ、って笑いながらまた歩き出した。
「言っとくけど‥オレが、上だからね?」
「いいけどね?別に」
同い年なのに、半年違うだけで敵う気がしない。
ベクヒョンは笑いながら、オレに後ろ手に腕を伸ばしてくる。
オレはその、綺麗な細い指先に触れるように手を伸ばした。
【世界のつづき】
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