BOOK1

□チャンベク/2
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ベクヒョンはいつもどおり、
お気に入りの本屋さんで立ち読みをしていた。

本棚の隙間と隙間に囲まれたこの小さな空間に閉じ込められている時が、異様に安心する。

トイレに籠ってと安心するのに似ている。

ベクヒョンは、「すいません」と声をかけられた時にすぐに対応できるように片耳だけイヤホンをして、新書を本棚から取り出した。文庫になるまではなかなか手が出せない。

ベクヒョンが2ページ目を捲ろうとした時。


「・・・・ベク・・ヒョン?」


本棚から顔をのぞかせた女の子が、自分の名前を呼んだ。

ベクヒョンは最初首を傾げた。

なぜなら、街頭であまり自分の名前を見ず知らずの人間に呼ばれたことがないからだ。


「・・・・あの・・?」


いったい誰だろう?
記憶をたどっても、見たことのある顔ではなかった。

ベクヒョンはパタンと本を閉じた。


「あっ、いえっ!読んでて下さい!お気になさらずに!」

本をしまおうとするベクヒョンに、女の子は慌てて手を振ってそれを止めようとした。

だがベクヒョンは、正直それどころではない。



「どこかで、お会いしました方ですか?」

ベクヒョンは本をしまい、彼女の方を向いてまじまじと見つめる様に彼女に近づいた。

「い、いえっ‥!なんでもありませんっ・・・!」


だけど、近づこうとした瞬間。
パッと距離を取って、自分の名前を知っている彼女は、その場から風のように立ち去って行ってしまった。






ベクヒョンが本屋から出ると、

"ドンッ"

と、人にぶつかった。


ベクヒョン「すいませ、んっ」

チャンヨル「わり‥、ってベクヒョンじゃん?」


本屋の前でぶつかったのはチャンヨルで。

チャンヨルはベクヒョンとぶつかって彼を見てから、ようやく両耳にいれてたイヤホンを外した。


ベクヒョン「・・・い、今‥女の子みなかった?」

チャンヨル「女の子?何?ベクヒョンナンパ?」

ベクヒョン「違うよ」

茶化すように言われて、ベクヒョンはちょっとムッとした顔をした。


ベクヒョン「名前を呼ばれたんだ。けど、声をかけたらいなくなって‥」

チャンヨル「ファンだったんじゃない?」

ベクヒョン「・・・・ファン?」



ベクヒョンは真面目な顔でチャンヨルに首を傾げる。

チャンヨルはそんなベクヒョンを微笑ましく見つめながら、彼の肩に腕を回した。



チャンヨル「それだけ有名になったってことなんじゃないの〜?俺ら〜」

肩を組んだ腕でグイッと引き寄せ、チャンヨルはクツクツと笑った。




それは、研修生のころと変わらぬ、ダンススクールに通ううららかな春の出来事。


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