BOOK1
□深夜のファミレス
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・・・
「ちょっと、待って!」
俺はミンホの腕を掴んだ。
あんまり咄嗟に掴んだのか、それとも思った以上にきつく握りしめてしまったのか、ミンホは少し驚いた顔で俺に振り返る。
「なんですか?」
「俺、別れないよ?」
宿舎を抜け出して、2人で来ていた深夜のファミレス。
店内に人はいないとわかっていても、ミンホはあたりを見渡し、俺に難しい顔をした。
「わかってるんですか?」
「ん?」
いつもなら、ここに来た後は決まってホテルに直行した。ここはそういう場所だ。なのに。ミンホは今日俺に別れを告げると、黙って伝票を引き抜いて立ち上がった。
「僕は兄さんを選べないんですよ?」
「それでもいい、つったろ?」
「つらくなるのは兄さんだ」
「今つらいのはお前だろ?」
じっと見つめると、観念したようにミノが肩の力を抜いたのがわかった。
俺は顎を上にして唇を突き出し、ミノの気持ちを確かめるように今、ここでのキスを強請った。
ミンホは後ろを一旦振り返り、ウェイタ-の気配を気にしながら素早く俺に触れるようなキスをした。
「俺から逃げんなよ・・・」
どちらが上かわからなくなるような官能的な瞳で彼を見つめる。
その目に折れたのか、まだ好きだという意味なのか‥
ミンホは俺が掴んでいた手首を翻しそのまま俺の指を絡めるようにして手の平を握り直した。
車のキーをポケットに突っ込んだそいつに腕を引かれるようにして。今日も深夜のレストランをあとにし、
俺は静かに口元を綻ばせた。
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