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□ずっと一緒にいようね
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『ずっと一緒にいようね』
アキラが喧嘩に巻き込まれて、病院に運ばれたと将五から連絡がきた。
俺は仕事を早退して、車を飛ばして病院へとかけつけた。
「アキラちゃん…待ってて…!」
病院内だろうが構わずに駆け足ダッシュで病室へと向かった
ガラッ…と病室のドアを開けると、将五と拓海がベッドの上のアキラを囲んで立っていた。
「アキラちゃん…!アキラちゃん…!」
「おい、落ち着けよ…前川…」
将五に肩を押されて、宥められるもアキラが心配でたまらなかった。
「アキラちゃん…大丈夫?かわいそうに…起きてて平気なの?」
アキラはベッドの上で頭に包帯を巻かれながらも、上半身を起こして不思議そうにこっちを眺めていた。
「アキラちゃん…?」
「……将五、こいつ…誰?」
「えっ、アキラ…ちゃん…?」
アキラが発した言葉の意味が理解出来なかった。
茫然と立ち尽くす俺に、藤代が喧嘩による脳しんとうでアキラの記憶の一部が欠損している…と教えてくれた。
アキラを救えるのは、俺しかいない…
**********
「将五…!藤代…!頼む…!アキラちゃんの看病…俺に任せてくれないか?」
俺は真っ先にその場で土下座をした。
アキラの為に、
アキラを救いたい一心で
「俺は…別にいいけど…将五は?」
「解ったよ…前川、頼んだぞ…明は、俺と拓海と金の事しか…覚えてねーんだ…大変だと思うけど…」
「ううん、構わない…ありがとな…」
翌日から付きっきりでアキラの看病に勤めた。
とりあえずは、
無くした記憶を取り戻すように色々と教えてあげることにした。
******
「むね…りん…?」
「そうそう!アキラちゃんはね…記憶を無くす前までは俺を"むねりん"って、呼んでたんだよ…!」
「ふーん…むねりん…」
「アキラちゃん…!か、かわいい…!!」
「わ!…抱きつくなよ…むねりん…くすぐってえよ…ははっ!」
毎日が幸せで
仕事も毒蛾の集まりも手につかないほどだった
「いい?アキラちゃんは、俺と付き合ってたんだよ♪」
「え…男同士で…?」
「うん、そうだよ…愛しあってたから男同士とか関係ないんだよ…?」
「そうか…ふーん…」
「毎日、"むねりん、大好き"って言ってたんだよ♪」
「え…むねりん…大好き…?」
(あー…やば、我慢出来ねー…、駄目だ、駄目だ…相手は怪我人だぞ…まだ我慢だ…でも…キス…だけなら…?)
「アキラちゃん…」
「ん?」
俺は我慢出来ずにアキラにキスをした。
ほんの僅か
触れるだけの…
「なっ…!?!なにっ…!?」
「あ、ごめっ…!でもさ…毎日、キスもしてたんだよ?」
「え…そうなのか…?ん…、わかった……」
記憶を無くしたアキラは面白い位に従順で素直だった。
やがて、アキラの怪我もすっかりよくなって無事に退院することが出来た。
その日は、
アキラの退院祝いも兼ねて、毒蛾と武装でブライアンで集まることになっていた。
車にアキラを載せてブライアンに向かった。
「アキラちゃんさ…武装の事も忘れちゃったの?」
「うーん…端々にしか思い出せねえな…」
「将五、藤代、金…幼馴染みの記憶だけは残ったわけだ…」
ブライアンに到着すると、
記憶を無くしたアキラを物珍しくみる姫川やツネや後輩達が集まってきた。
「な、なんだよ…なんなんだよ…こいつら…」
「ん?みんなアキラちゃんの仲間だよ♪大丈夫!」
「むねりん…なんか、こわい…」
「…は?おい、宗春…今、アキラ…むねりんって言ったか?」
ツネがあっけにとられた顔で突っかかってきた。
「なんだよ…悪いかよ…ほら、アキラちゃんおいで?」
俺は、アキラを隣りに座らせコーヒーを2つ頼んだ。
将五が怪訝な顔でこっちを睨む。
「おい…前川…、」
「将五、いいから前川に任せよう」
将五が口を開くと、拓海がそれを制止した。
恐らく今のアキラの現状が面白くないのだろう。
アキラは俺の腕に絡み付き、まるで猫のようにピッタリと甘えてくる。
「あちっ、」
「ん?アキラちゃん、猫舌だっけ?ふーふーしてあげるね♪」
「サンキュ、むねりん!」
周りがアキラの変貌ぶりに驚き、誰も何も言えずにいた。
そりゃあそうだ
俺が本来のアキラの姿にしてみせたんだから誰にも何も言わせない
アキラの怪我も治ったし、今夜は久しぶりにアキラとお泊まり……、
―――♪―♪―♪―
「おっ…と、あー職場から電話だ…」
「むねりん?どこ行くの?」
「ごめん、アキラちゃん…!ちょっと電話してくるね♪」
「…あ、うん」
なんつータイミングの悪さ。
最近、アキラに付きっきりで仕事休んでたからなぁ…
**********
「おい…明…、」
「なに?」
「お前…いいのか…このままで?」
「将五…、いいんだよ…」
「拓海、だってな…あれは完全に前川が洗脳…!!」
「病院の先生が話してたんだけど、明の記憶はそろそろ戻るみたいなんだよ」
「え…!」
「お待たせー♪アキラちゃーん!」
「……………、」
「ん?どうしたの?アキラちゃん…」
「……………、」
「むねりんだよ♪」
「………あ?」
「だから、アキラちゃんのむねりん♪だよー」
その時、
クスクスと笑う拓海や将五が視界に飛び込んできた。
「将五、な…なに笑ってんだよ…?」
「戻ったみたいだな…なあ、拓海」
「そうみたいだな…」
アキラを見ると複雑そうな表情を浮かべて俺を睨んでいた。
「アキラちゃん??」
「お前…なにした?」
「えっ、」
「お前…俺に何したんだよ…」
「アキラちゃん?お前じゃなくて、さっきみたいに"むねりん大好き"…って……え?え?」
よく見ると、それは記憶を失う前のアキラの顔でー…
俺はアキラの記憶が戻った事を悟った。
それから俺は、
周りに馬鹿にされ冷やかされ、
アキラは怒って将五にベッタリだった。
「儚い…夢だったなぁ…」
俺が一言、漏らすと洋次は言った
「これから頑張りゃいいじゃねーか、お互い好きなんだろ?」
「あぁ、そうだな…!」
アキラが好き、
アキラの全てが好きなんだ…
いつになるか解らないけど、
また「むねりん」と呼んでくれるその日まで…気長に待とうと、俺は思った。
"それまではずっと一緒にいようね"
end