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□愛ノ言葉
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『愛ノ言葉』
毎週、土曜日は軍司さんの家にお泊り。
それはもう必ず決まっている約束事になっていて、土曜日の夜は二人でお酒を飲みながらまったりと仕事の話をしたり、昔の思い出話に花を咲かせたり‥こういう軍司さんとの時間がとても好きで、俺は毎週土曜日が待ち遠しくて仕方なかった。
ただ今日は‥
最近仕事がとても忙しくかなり疲れていた様子の軍司さん。
酒のペースも酔う速度もいつもより早く感じていた。
お酒に強い軍司さんでも仕事で疲労が溜まれば、すぐに泥酔する。
もちろん、その後はしっかりとヤル事はヤるんだけど‥
今日はいつもとはちょっと違った。
‥俺がくだらないヤキモチさえ、焼かなければ。
既に出来上がった泥酔状態の軍司さんがベロベロになりながらも口を開いた話題は、やはり「本城さん」の話だった。
‥また、本城さんの話か。
学生時代は毎日のように本城さんの話を聞かされた。
その頃は単純に軍司さんがそこまで憧れる男なら、会ってみたい。とまで思っていた。
しかし、
社会人になってからも尚‥酒に酔うと軍司さんの口から出るのは「本城さん」の名前。
「十希夫‥聞いてるかぁ?本城さんはな‥格好よくてな‥本当に強かったんだぞ〜!」
「はいはい。もう、何万回も聞きました。」
「あれ?そうだっけ?はははっ!!」
「ふう」と一つ溜め息をつく。
俺は悩んでいた。
軍司さんが本当に好きなのは‥「本城さん」なのではないかと。
本城さんへの想いが伝わらないから、代わりに俺を選んだんじゃないかという不信感さえ抱いた。
不信感を抱いたり、本城さんに嫉妬したり‥
恋人失格だな、俺。
軍司さんを信じなきゃ。
最近、こんな感じで軍司さんが「本城さん」の話をする度に俺の気持ちは罪悪感でいっぱいになっていた。
俺はずっとずっと軍司さんの事が好きだった。
だから、
軍司さんから告白された時は夢じゃないかと思うくらい嬉しくて堪らなかった。
「十希夫‥?」
「はい」
「なに、ぼーっとしてんだよ」
「いえ、別に‥」
缶ビールを喉に流しこみ、そっけない態度を取る。
そんな態度に気付く訳もなく、泥酔した軍司さんは俺の腰に抱き着いてきた。
「十希夫、なぁ‥本城さんってすげぇだろー!俺も、あんな格好いい男になりたいもんだぜ‥」
「‥‥軍司さんは、軍司さんのままでいいと思いますけど」
ちょっと拗ねた口調で、もういい加減に本城さんの話題から離れてくれないかと、願った。
「んー‥十希夫は可愛いなぁ‥」
「軍司さん、今日ピッチ早すぎですよ。もう飲まない方がいいです!」
「ん‥そんなに俺、酔ってるか?」
「泥酔してますよ。」
「じゃあ‥次は十希夫に酔っちゃおうかな!」
「えっ‥」
背中に手を回され、優しく床に押し倒された。
上に乗りかかる軍司さんの目は、酒のせいもあってとろんとした甘い眼差し。
次第に近づく唇。
拒む理由などない。
ちゅっと啄むキスを角度を変えて何度も何度も重ねる。
軍司さんとのキスは本当に気持ちがいい。
ただ、
やはり気になるのはつい数分まで語られた本城さんのこと。
もし、軍司さんが俺を本城さんの代わりとしてキスをしていたら?
もし、俺を本城さんの代わりとしてセックスをしていたら?
本城さんと重ねて見られているのではないかという不安が付き纏う。
それでもいい、と思う瞬間もあった。
例え、本城さんの代わりでも軍司さんの側にいられるならー
本城さんの代わりでも、軍司さんに組み敷かれるならー
それでもいい‥我慢すら出来る、そう思ったこともあった。
ただ、貴方が好きだから。
行為が進むに連れて、切ない感情を掻き立てられる。
胸に沢山のキスマークをつけられ、
胸の突起を弄ばれ、
首筋や耳を甘く噛まれ、
既に硬く勃った自身を愛撫され、
優しく呼ばれる名前。
「十希夫‥」
もう、
本城さんの代わりでもいい。
貴方にこうして身体中を愛されるなら。
気付くと涙が溢れ、頬を伝い流れ落ちる。
「ん‥十希夫、どうした?大丈夫か?」
軍司さんは優しい。
行為の最中、どんな状況であれ俺を一番に心配してくれる。
例えば今、まさに挿入する瞬間でさえ。
俺の涙を見て、本気で心配してくれた。
「なんでもないです‥なんでも‥」
「十希夫‥何か考えてるな?」
「なんでもないんです‥軍司さん‥早く‥挿入れてください‥」