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□幸せ晩ごはん
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ゆいとさんへ

軍司の元で働きながら、家事を手伝う十希夫。
自分の進みたい進路に悩むも、軍司の側を離れたくなくて…そして、それに気付く軍司のお話。

リクエストありがとうございました♪






『幸せ晩ごはん』




十希夫が卒業して、うちで事務や営業として雇う事にした。

何より俺の目の届くところに置いておきたかったし、
十希夫と離れたくなかった。

十希夫もまた仕事をそつなくこなして、仕事の合間や仕事が終わるとうちの家事を手伝ってくれた。



最近、岩城家の晩ごはんはもっぱら十希夫の手料理だった。

親父もおふくろも「毎日、美味いごはんが食べられる」と、とても喜び、十希夫も料理が好きだから…と満更ではない様子だった。

とても微笑ましい幸せな日々だった。


夕方に仕事を終えるとまっすぐにスーパーに買い物に行き、
夕飯の買い出しをする。

俺と親父の帰宅に合わせて、十希夫が飯を作り、おふくろが洗濯をする。


まるで、
嫁と姑だな……


なんて、
十希夫の背中を微笑ましく眺める



「軍司さん…?みっ、見てないで暇ならお皿並べてください…!」

「はい、はい」


「〜♪〜♪」


鼻唄なんか歌っちゃって…


十希夫は鼻唄を歌いながら味噌汁を作る癖がある

うまく出来た証拠だ


「十希夫、本当に楽しそうに飯作るよなー」

「好きなんですよ…料理とか、興味があったし…」

「ふ〜ん…」


その会話に深い意味はなかった。
だが、十希夫のなかでは違っていた…


********


十希夫は月の半分はうちに泊まっていた。
どうせ家は近所だし不便もない。

離れたくない…ただそれだけの理由

俺達はうまくいっていた



日曜日、
起きると十希夫が隣りにいなくて…俺は寝惚けながら目を泳がせた



「十希夫…?」


帰ったのか……それとも、起きて家事でもしているのだろうか…?


「…ん?」

ふと、
目に飛び込んできたのは見慣れないパンフレット。



「学校…案内……?」

ベッドから這い出て、パンフレットを手にする


「調理学校……?」


見慣れないそのパンフレットをまじまじと開いていると、
いきなりドアが開き十希夫が入ってきた



「あ、軍司さん…起きてたんですか?」

「お、おう…なあ十希夫…このパンフレットなんだ?お前のか?」

「……あっ!!!」


十希夫は慌てて俺の手からパンフレットを取り上げ、とっさに丸めてゴミ箱へと放り投げた



「お、おい…十希夫?」

「なっ、なんでも…なんでもないです…勝手に送られてきたみたいで……置きっぱなしにしてて…すみません……」

「そうか…?」

「はい…あっ、あのっ…朝ごはん出来ました……キッチンに行きましょう」




明らかに十希夫の態度がおかしかった


それからも度々届く事務所への調理系の学校案内、

時々悩んだ表情をする十希夫、
俺がどうした?と聞いても無理に笑ってみせるだけ…

「なんでもありません」

それだけだった…
無理に笑う十希夫の気持ちが解らぬままだったが、
ある日事務所をこっそり覗くと溜め息をつきながら捨てたはずのぐしゃぐしゃのパンフレットを広げては眺めていた



(…あいつ、もしかして)


********

俺は意を決して、十希夫に訪ねた

「十希夫、話がある」

「…はい?」

「…お前さ、本当はその調理の学校に行きたいんじゃねえか?」

「………!!」

「…十希夫?」


十希夫は黙って俯いたまま、
数秒後にゆっくりと顔をあげた


「なっ…なに言ってるんですか?軍司さんっ…俺…もう学校なんて懲り懲りですよ…」


また無理に笑って見せてる

「……十希夫、俺達の間に隠し事は無しだ…解ってるな?」

「……あ…、……はい…軍司さん…」

「本当は、学校に行きたいんだ
な?」


十希夫は俺の顔を真剣に見つめ、口を開いた




「………ずっと、…悩んでました。ここで働かせてもらっていつも軍司さんと一緒にいられて楽しいし…嬉しくて…でも、家事を手伝って、晩御飯とか…作ってるうちに…そっちの方が楽しくなってしまって……。」

「料理を作ることに興味があるんだな?」

「…はい、あの料理だけじゃないんです…栄養管理とかそういうのも学べたら…きっと軍司さんにご飯を作るときに役に立つかなって……すみません…」

「なんで、謝るんだよ?」


俺は十希夫の髪を優しく撫でた

十希夫は真っ直ぐ、
ただ真っ直ぐに俺の目を見つめていた…

怯えた子猫のように




「…話してくれて、ありがとうな」

「軍司さんっ…捨てないで…!」

「……!すっ、捨てるわけねえだろう?どうした十希夫…?」

シャツをぎゅっと握り、
すがる十希夫を俺は強く抱き締めた。



「…十希夫、」

「軍司さん…隠しててごめんなさい…」

「十希夫、お前…その学校に行けよ…な?」

「えっ…!でも……、仕事が…それに俺、軍司さんの側にいたいです……!」


抱き締めながらぽんぽんと頭を撫でてやると、十希夫は肩を震わせて背中に腕を伸ばし強くしがみついた


「いや…だからさ、学校終わってからでもいいからうちでバイトしねえか…?な?時間がある時でいいからよ…きっと、親父やお袋も解ってくれるよ」

「…軍司さん…いいんですか?」

「いいも悪いも、お前の人生だろうが!行きたい道があったら進めばいいんだよ…あのバカみたいにな…!」

「………ぷっ、ははは…ゼットンさん…?」

「ふっ、ははははは!そうだ…!!」


俺達はそのまま抱き合いながらクスクスと笑いあって、
進む道は違えどずっと一緒だと心に誓った…




それから、
十希夫は専門学校へ通いながら時間のある時はうちに来てバイトがてら、家事を手伝ってくれた。

会う時間が減ったのは淋しいが十希夫がめきめきと料理の腕をあげる度に晩御飯が楽しみでならない…




「俺は…幸せもんだな…」

「ん?なんですか…」

「一生、こんな美味い飯を食って生きてゆけるなんてな…」


「…………はい」

十希夫は少し恥ずかしそうに笑って、おかわりのご飯を差し出した。




end

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