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□君でなければ。
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『君でなければ。』



もうすぐ公平がいなくなってから、一年目の冬がくる。




************


俺は公平の仇を取りその事件がきっかけで再び、少年院に戻った。
慣れたその場所で俺は模範生として僅か一年も経たずに出所してきた。

出てきた時にはパルコもキーコもこの街には居なくて免許を取り、夢を叶えるためにこの街を出たとテルから聞いた。



すっかり息も白く、
寒い季節となっていた。

俺は以前、お世話になった工場に再び再就職が決まり真面目に働いていた。


ただひたすら…
なんの目標もなく。


公平がいない、


ただそれだけで昔とは違う客観視しか出来ない俺がそこにはいた。



「お、京介…!もうすぐクリスマスだな!!クリスマスは彼女とデートか?」

社長がからかいながら話してくるものだから、俺は思わず苦笑いをした。



「いえっ、彼女なんて…いないっすよ…残念ながら…はははっ、」

「わはは!さみしいクリスマスだなー!そうだ…あいつも彼氏がいなくて独りらしいからこれで、一緒に飯でも行ってくればいいぞ…!はははは!」

「なんすか…これ?」


手渡されたチケットには、
カップル限定で半額でディナーが食べられるという内容の文字が書かれていた。

そして、社長が言った「あいつ」とは…俺よりひとつ歳上の同僚の女の子だった。


「しゃ、社長…!木津くんが迷惑してますから…」


見た目は悪くない。
眼鏡をかけてて、小さくて可愛らしい感じの女の子。

歳上だし、少年院あがりの俺は話すのがなんだか申し訳なくてなんとなく話す機会を逃して、挨拶をする程度だった。



「木津…いいよな?一緒に行ってやれよ!」

社長命令なら仕方ない、と俺は「俺で嫌じゃなければ…」と誘ってみた。


その日をきっかけに、
ひとつ歳上の同僚の女の子とよく話すようになり、
クリスマスも二人でディナーを食べに行き、お互いの家を行き来するようになった。



もちろん、
付き合ってはいない。

ただなんとなく部屋に二人でいるとそういう雰囲気になりそうな場面がいくつかあった。


多分、
この子…俺の事。

女の子とここまで親しくなったのは初めてだし、嬉しい。
あれだけ彼女がほしいと豪語してた俺だ、うれしくない訳がない。

だけど、
どうしても先には進めなかった。


この子といても、
考えてしまうのは公平のことばかり。

もし、
この子が公平だったら…

なんて、
自分勝手な妄想ばかり頭を巡っていた。

俺は今日も仕事が終わってから、彼女の家に来ていた。




「木津くん…?大丈夫?ボーッとしちゃって?」

「えっ…、あ、ははは!ごめんっ…!えっちなこと考えてたわ…!ははははは!!」


俺がいつも冗談混じりで下ネタばかり言うのは、日常茶飯事だったから今日もそんな冗談を交えて切り返してみせた。



「もー、またそんなこと言って!」と、いつものように返してくれるであろう…と俺は思っていた。





「…………いいよ、」

「え?」

「私…、木津くんなら…いいよ…、」

「は?えっ?え……?」

「ずっと前から…好きだったの…」

「………!!」



女の子に告白をされたのは…生まれて初めてで…

見つめられる熱い視線から、その子の本気が伝わった。



「いいっ…て、本当に?」

「…うん、」


俺は近づき、
その子の眼鏡をはずして、静かにローテーブルに置く。

瞳を閉じるその子の肩を両手で包んだ。



*******



「こうへー、」

「んだよ?」

「お前さ…キスしたことある?」

「…言いたくない」

「俺、ねーんだよな!」

「あっそ、」



後ろから公平に抱きついて、
俺の好きな公平の匂いを嗅いだ。


「公平…いい匂い…、」

「男相手に盛るなよ…ばか」

「なー?」

「あ?」

「キス、していい?」

「………、」



一瞬だった。

公平からチュッと一瞬だけ、あたるだけのキスをされた。

嬉しくて
嬉しくて
そのまま公平を後ろから抱き締めたまま床に寝転んで…じゃれあった。


「俺のファーストキス、公平に捧げちゃった♪」

「……お互い様だ、」

「えっ?なに!なに?まさか公平も初チュー?!」

「う、うるせえ…!!」


それから俺と公平は、付き合い始めた。

キスもセックスも何もかもが公平が初めてだった。






"忘れられねえ…"



*********


唇が僅か数センチまで近付いたところで、俺は…その子から顔を背けた。


「……ごめん、」


静かに眼をあけて、首を横に振る彼女。


「…ごめん、」

「謝らないで?」

「……、」

「好きな人がいるんでしょ?」

「………うん」

「やっぱり…、」

「もう……二度と会えないけどな…、」


彼女はその言葉を聞いて、察してくれたらしく静かに涙を拭っていた。


俺は彼女を家を後にし、
帰宅するために歩きながら自分の中で起こったある異変について考えていた。



公平とキスしただけで…あんなに勃ってたのに…。

彼女とキスをする瞬間になっても俺の自身は反応すらせず、
頭を巡っていたのは公平との思い出…ただ、それだけだった。



気付くと俺は自宅ではなく、公平の墓の前にいた。




「よー、公平……お前のせいでインポになっちまったじゃねえかよ…どう責任とってくれんだよ……」

女の子にすら反応しない俺の自身。
公平にはあんなに反応してたのにな…本当に滑稽で笑える。


お前を独りにしたバチがあたったんだな…なんて思いながら墓石にキスを落として公平への愛を誓った。




"一生、愛してるのはお前だけ"


end

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