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□青春刹那〜後編
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『青春刹那〜後編』




あの記憶喪失事件から三ヶ月が過ぎた。


あれから前と変わらず、明との付き合いが続いていく…かのように思っていた。

そりゃあキスもするし、抱き合って「アキラちゃん大好き」って言うとこまでは前と何ら変わらない。
アキラちゃんも相変わらず、顔を赤くして恥ずかしそうな反応をしながらも傍にいてくれる。

ただ問題は、


あの日から身体を重ねていないこと…


それなりに甘い雰囲気になって、明を押し倒して顔や首や耳にキスをして服の下から手を滑り込ませると気付く…、



"アキラちゃん…震えてる…?"


怯えた目をして怖そうに不安そうに俺を見つめる。


俺は行為を中断して、そっと明を抱き締めて「大好きだよ」と囁くとその震えは止まる。


以前は…震えてるなんてことは、なかった。


あんなに怯えた目をして…

お陰でキスから先に進めずにいた。
明を悲しませたくないし…なによりあんな辛そうな表情…


俺は、悩んでいた。




「なあ…洋次…、」

「ん?」

「セックスしてえ…」

「………他をあたってくれ、」

「アホッ…!誰がお前とするかよ…!!アキラちゃんとだよ…!!!」

「…さらっと言うなよ。んなこと…」

「俺…記憶喪失の時に…アキラちゃんに何か言ったのかなあ…、」

溜め息を深くついて、チラッと隣りに座る洋次を見上げる。


「…宗春、お前覚えてねえの?」

「ん?なにが?」

「奈良に"男と付き合うだなんて、気持ち悪い"って言ったんだよ…」

「は…?え…?俺が…?アキラちゃんに?」

「ああ、女には不自由してないからとかなんとかほざきながらな!」



もしかして…明…その言葉を気にして…?

俺に「気持ち悪い」って言われるのが怖くて…?

だから、
あんなに震えて、怯えて…る…?



「宗春、お前さ…奈良を相当、傷つけてたこと…忘れるなよ…奈良は"そうだよな"って無理に笑ってたんだぜ?」

「……俺は、最低だ。」


洋次から聞いた俺の酷い台詞を激しく後悔した。
明に合わす顔もない…
なのに、明は前と変わらなくて…




このまま明と離れようか…?

その方が明のため…?
明が怖がらなくて済むのなら…

それとも、
やり直しがきくのなら…明と死ぬまでできなくても一生一緒にいた方が幸せ…?

俺は、
ただ明と一緒にいたい…。




その夜、明を自宅に招いた。
その日は家族が誰もいなくて、明にうちに泊まるよう促した。


「前川さ…なんか、今日…変じゃねえか?」

「えっ、ああ…そうかな?ははっ…別になにもないよ…!」

「何だか…俺の顔色ばかり伺ってるっつうか…」

「……き、気のせいじゃない?さ、寝ようか…!」

「ちょ、ちょっと待てよ…前川…なんだよ…この布団…」

「アキラちゃんの布団だけど?」

「俺は布団で、お前はベッドかよ…?」

「あ、ごめん…アキラちゃんベッドがいいなら俺が布団に…」

「そうじゃなくてよ…前はベッドに一緒に寝てたじゃねえか……なんだよ…また記憶喪失になったのかよ…、」


今にも泣きそうな明の表情…


抱き締めたい

抱き締めたい

抱き締めたい…



「…洋次から聞いた、」

「…?」

「俺…アキラちゃんに"気持ち悪い"って言ったって…。だから、怖くて震えるんだよね…?だったら…もう、アキラちゃんには触れない方がいいのか…って…」

「バッ…バカかっ…お前は本当に最低だなっ…!!確かにヤった後でまた、"やっぱり男は気持ち悪い"とか言われたら怖くてたまんねーわ!でもなあっ…俺は…俺…は…、俺はなぁっ…今日、お前に抱かれにきたんだよッ……!察しろ、バカッ…!!」


「えっ、アキラちゃん…い、いいの…?」

「震えなんて気にすんな…!お前らしくねえんだよッ…!ったく、このまぬけッ…!!」


明が真っ赤になりながら、タンカ切って俺を誘った。
俺は嬉しくて堪らなかった。


俺は…本当に最低、だ。



**************


そして、
俺は明と三ヶ月ぶりに繋がった。

その日、
付き合ってから初めて明が俺のを口淫してくれた。

嬉しくて
嬉しくて
普段、何も言わない明から口淫をしてくれたのが堪らなく嬉しかった。



「くそまじぃ…」

明はそう言って、全部飲んでくれた。


愛は伝わる。


「激しい夜だったね…アキラちゃん…♪」

「言うな…!」

「いやー、まさかアキラちゃんがフェラ…」「言うなぁあー!!!」

「もがっ…もが…わかった…」

「ったく、あほ…!」

「でもさっ♪嬉しくて!」

「ああ?」

「アキラちゃんから俺の上に股がって…」「だから言うなぁあー!!」

「いてっ…!」

ゴンッ…と頭を叩いて、背中を向けた明の全てが愛しい。

跳ねた後ろ髪も
意外と細身な背中も
綺麗な肌も
全部、

俺は手を伸ばして後ろからギュッと明を抱き締めた。

腕の中に包んで閉じ込めた。
逃げないように。
逃がさないように。


もう震えてないね…ほら、もう大丈夫。


二度と忘れないよ。
明のことだけは。


end

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