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□初恋、卒業。
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『初恋、卒業』



「黒澤さん…もうすぐで、卒業ですね」

「ああ…なんだかあっという間、だったな」


今はすっかり寒い季節。
冬、真っ只中ー

間もなく俺の大好きな人は卒業してしまう。

この想いを伝えられぬまま、
行かせてもいいものか…俺は悩んでいた。


「黒澤さん…卒業したらどうするんですか?」

「東京に行く、知り合いが代官山にいるんだよ」


えっ……、

東京…代官山……。


「そう…ですか…」

「ん?銀次、どうした?」


もう会えない、
もう会えないんだ…

貴方に

こんな風に当たり前のように会えていた日常が過去になる。

ふいに熱くなる目頭を隠すように俯いた。


「銀次?」

貴方が好きです…

貴方が好きです…


たった一年しか貴方と一緒に通えなかった、俺にとっては大切な短い時間だった。

俺がもう二年、早く生まれていたら

貴方は俺を後輩としてじゃなく、恋愛の対象として見てくれましたか?

あの人のように同等にタメ口で喋って、

あの人のように貴方に触れて、


あの人のように

…俺は貴方を抱く事が出来ましたか?


溢れる涙、

俺は顔をあげることも、

黒澤さんの呼ぶ声に答えることも出来なかった。


「泣くな、銀次」



「…えっ!」


顔を上げると泣きそうな顔で、俺を見つめて微笑む黒澤さんが優しく俺の頭をそっと撫でた。


ああ…、

貴方は知っていたんですね。

俺の想いを

伝えられぬ、

俺の想いを


黒澤さんは、

俺も…あの人をも置いて東京へ行ってしまう。

恐らく、あの人への想いを立ちきるためでもあるのだろう。



花木九里虎…


それからも、
黒澤さんはずっと俺の頭を撫でてくれた。



「黒澤さん……俺…」

「うん…」

「俺…俺も…卒業したら、東京に行きますね」

「ああ…待ってるよ」

「黒澤さん…」

「ん…?」



ー貴方が大好きでした。


***********

そして、
貴方は卒業してすぐに東京へと向かった。

誰にも告げずに、
ひっそりと

そんな貴方らしい生き方が好きです。


卒業式が終わって数日後、黒澤さんから一通のメールがきた。



「代官山はいいところだ。今度遊びに来いよ。元気でな、銀次」



メールは返さなかった。

俺は黒澤さんから卒業しなければならなかったから。
いつまでもこの恋を引きずる訳にはいかなかったから。



きっともう会うこともないだろう。

サヨナラ、俺の初恋。

サヨナラ、大好きな貴方。


もうすぐ冬が終わる。


end

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