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□卒業までのカウントダウン
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『卒業までのカウントダウン』
あと半月足らずで、軍司さんが鈴蘭を卒業する。
4月からは軍司さんのいない学校生活だ。
それを今から考えると淋しくて、悲しくて、不安て戸惑いでいっぱいになる。
左官業を継ぐ、軍司さんは地元には残ってくれるけれど社会人ともなれば‥きっと色々な誘惑や出会いもあると思う。
だから、
付き合ってるからと言って俺も油断は出来ないんだ‥。
いつ軍司さんにどんな誘惑が待っているか解らない。
高校生と社会人の差って‥大きいよな。
たった一年の差なのに。
「1、2、3、4、5、6‥」
「軍司さん、何を数えてるんですか?」
「んー?俺もあと少しで卒業だろ。だからあと何回、十希夫と学校でキス出来るかなって数えてた。」
「なっ!そんな恥ずかしい事やめて下さい‥!!」
「だってなあ‥もう今みたいに毎日、会えなくなるんだぜ?」
「‥はい」
解ってる。
もう毎日会えなくなるのは解ってる。
それが現実なのだから‥
いくら家が近くても、会える時間は限られるし。
きっと距離感は生まれると思う。
いくら愛しあっていても。
「十希夫、んな泣きそうな顔すんなよ‥」
「すみません‥つい、不安になってしまって‥」
「会えない日は電話する」
「‥はい」
「毎日、メールもする」
「はい」
「日曜は休みだから、十希夫とイチャイチャする」
「はいっ」
「んー‥後は土曜日の夜は十希夫がうちに泊まりに来ること!」
「‥は、はい!」
ああもう‥軍司さん、
貴方はいつも俺の欲しい言葉を沢山くれる。
不安なんかどっかに行ってしまうくらいに、貴方の愛情に包まれているのが解ります。
「安心したか?十希夫‥」
「はい、しました!」
「お前‥卒業したら、うちに就職しろよ」
「えっ‥軍司さんちにですか?でも左官業とか‥俺に出来ますかね?」
「ばか‥永久就職だよ。」
そう言って、目を細めてちょっぴり照れたように笑う軍司さんを見て嬉しくて泣きそうになった。
「永久就職‥って‥軍司さん‥その言葉、ずるいです‥。」
「俺なりの、プロポーズな!」
「‥‥軍司さん、好きですっ!」
そう言って、
軍司さんの逞しい背中に手を伸ばしてギュッと抱き着いた。
胸に顔を埋めて幸せを噛み締めて。
軍司さんの匂い、温もり、優しさ、眼差し、俺を包む大きな手‥何もかもが大好きで愛しい。
「十希夫は可愛いな‥」
バチッと視線が至近距離で合うと、そのまま静かに俺達は目を閉じて唇を重ねた。
「卒業までのキスのカウントダウン、まずは一回目。」
end