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□プラトニックはいらない
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『プラトニックはいらない』


軍司さんに告白をされた。

それはまるで夢心地だった。
ずっと何年も好きで好きで、でも幼なじみで年下の俺なんか相手にされる訳がないって諦めていた恋。

それがまさか、
俺が同じ高校に入学して間もない春に。

軍司さんの口から出た言葉は、

「十希夫の事がずっと好きだった」



告白をされた直後、
俺はただ赤面して黙ってしまったのだけれど‥本当は心の中で大笑いして万歳をした。

嬉しくて
嬉しくて
堪らなかった。


軍司さんは赤くなって黙ってる俺に、

「十希夫‥ごめんな、男に告白されるなんて気持ち悪いよな‥」

なんて言うもんだから‥


「おっ、俺も軍司さんと同じ気持ちです‥!」

と、想いを伝えた。

「十希夫‥本当か‥?嘘じゃないよな‥?」

「‥‥はい。俺も軍司さんの事が‥」

まだ俺が「好き」と言う前に軍司さんは、俺の背中に両手を伸ばして思いきりギュッと抱きしめた。


「十希夫!じゃあ、今日から付き合うか‥!!」

「‥は、はい!」


夢のようだった。
大好きな軍司さんの腕の中に俺がいて、抱きしめられてて。
大好きな軍司さんのいい匂いが鼻をついて、俺の身も心も熱くした。


それから、一ヶ月が過ぎたー。


気持ちが通じたからと言って、特に何も変化はなかった。

まだ一ヶ月だしな‥と思いつつも、何もしてこない軍司さんに多少の苛立ちを抱えていた。

登下校はいつも一緒だし、空いてる時間は美術室で他愛のない話をして‥それなりに甘い雰囲気になるのに、キスすらまだしていなかった。


男同士が付き合うって、こんなに何もしないものなのか。

高校生のヤリたい盛りに何一つしてこない軍司さん。

口では「好き」とか「愛してる」と言ってくれても、身体や唇に触れてくれないのは‥もどかしくて不安で淋しくて堪らなかった。


本当に俺のことを好き?

からかっただけ‥?

不安が胸をつく。


そんな時、軍司さんが「今日、うちに泊まりにこないか?」と言ってきた。
もちろん二つ返事でオッケーした。

久しぶりに軍司さんの家に泊まる、子供の頃はよく泊まりっこをしていたのに今は違う意味で凄くドキドキして何かを期待している俺がいた。
そういや‥ガキの頃はよく一緒に風呂にも入ったっけ‥。

なんて、昔を思い出しながらまた軍司さんとお風呂に入りたいと思う俺って‥そうとう溜まってるな。

夜になり、行き慣れた軍司さんの家にお邪魔する。

「おお、十希夫!よく来たなぁ!!」

「お邪魔します‥そういや軍司さんの家、久しぶりですね。」

「今日、両親は誰もいないんだ!ゆっくりくつろげるな♪」


えっ‥軍司さんと二人きり‥?

これは‥ついにその時がくるかも‥。

「十希夫、海外ドラマのシリーズ一気に借りてきたんだ!二人で見ようぜ」

「それって‥果てしなく長くないですか?」

「うん、朝まで寝かせねえぞ〜!」

それはどっちの意味なんだろう‥なんて、思いながら軍司さんの部屋でDVDを再生した。

「十希夫、なんでそんな隅っこにいるんだ?こっちにこいよ。」

「あっ!は、はい‥」

軍司さんの隣り腰を下ろすとぐいっと肩を抱いて引き寄せられた。

これは期待出来るかも‥
もはや海外ドラマの内容よりも軍司さんとの甘い夜のことで頭がいっぱいだった。



深夜になり、8枚借りてきたDVDもようやく半分まで見終えた。

ふと隣りを見ると、寝息を立てて軍司さんが寝ていた。
起こすのも可哀相だけど、これじゃあせっかく俺が泊まりにきた意味がない。


「軍司さんっ‥軍司さんっ‥!起きて下さいよ!」

「んあ‥ああ、悪い‥俺、寝てた?」

「‥はい」

「途中までは覚えてるんだけど、気付いたら寝ちまったみたいだなあ‥」

「今日はこのへんにして、もう寝ましょうか?」

「そうだな‥今、十希夫の布団、敷くから待ってろ!」


えっ‥。

軍司さん、一緒に寝てくれるんじゃ‥ないんですか‥!?

確かに軍司さんのベッドに男二人は狭いけれど、はまらない訳じゃない。

‥てっきり軍司さんと一緒に寝られるって期待してきたのに‥


目頭が熱くなって、流したくもない涙が零れおちた。


「とっ‥十希夫!どうした?具合でも悪いのかっ‥!?」

「‥‥軍司さん、俺の事‥本当に好きですか?」

「えっ‥当たり前だろ!何言ってんだよ!!」

「じゃあ‥‥なんで、付き合って一ヶ月も経つのに何もしてくれないんですか?」

「とっ‥十希夫‥お前‥」

「俺‥今日は軍司さんと‥一緒に寝たい‥です‥」

ついに言ってしまった。
ずっと想っていた苛立ちをぶつけてしまった。

軍司さんが悪いんですよ。

なんにも、
してくれないから‥


「十希夫‥悪かったな‥ごめんな‥」

そう言って、俺を抱きしめてキスで涙を拭いた。


「ぐっ‥軍司さっ‥」

「ははっ‥十希夫の涙、しょっぱいな‥!」

「‥‥はい」

「きっと一生忘れられない味になると思うぜ」

「えっ‥」


それから、涙の味のするキスをそっと唇に落とされた。
軍司さんの優しいキスに頭が真っ白になって、今まで悩んでいた事なんてどうでもいいやって気持ちになった。


貴方が側にいれば、それでいい。


静かに唇が離れて、軍司さんの顔を見ると顔は真っ赤で少し震えているかのようだった。


「十希夫、淋しい思いをさせてごめんな‥。お前に一度触れてしまうと、もう歯止めが効かないと思って‥ずっと我慢してた。」

「えっ‥それって‥どういう意味‥ですか?」


まだ赤面したままの軍司さんはチラリとと俺を見て、いきなりガバッと押し倒してきた。


「こっ‥こういう意味だよ‥!」

「軍司さ‥!」

「十希夫‥本当にいいのか?俺は途中で、やめてと言われてもきかねーぞ!!すっげえ、我慢してたんだからな‥!」

「ははっ‥それはお互い様です。」


それからもう一度、キスを交わして俺達の甘くて長い夜が始まった。



ずっと
貴方とこうしたかった。

貴方の体温が直に伝わる

貴方の汗が直にくっつく

貴方の身体と一つに交わる

それは俺にとって願ってもない幸せ。

歯止めなんかきかなくていいんですよ、軍司さん。‥って、言おうと思ったけどこの言葉はもう少し先に取っておいて。


あの時に言えなかった、

「好き」をまずは貴方に伝えたいと思う。



end

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