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□DOLLS
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『DOLLS』


卒業を間近に控えた2月の冬。

俺とゼットンは寒い冬の海に来ていた。

風は吹き荒れ、もちろん他に人影もなく二人きり。

何故、ゼットンが急に「コメと海に行きたい」と言い出したのは解らないが二人で出かけるのは今日が最後だと予感していた。



俺は卒業して、東京へ行く。

ゼットンは地元に残る。

一日10時間の勉強に疲れている様子のゼットンだったが、海に来てみるといつものハイテンションでまるで子供みたいに、はしゃいでみせた。


「コメー!ほら、こっちこいよー!!」

と、波打際に呼ばれ仕方ないな‥と少しづつゼットンに歩み寄る。

「うー‥寒い‥お前、寒くないのかよ‥」

「お?全然平気だ!」

さすが冬にTシャツ一枚でいるだけあるな‥なんて思いながら、波打際まで近付いた。


「コメ‥この海は、外国まで繋がっているんだろ?」

「あ?当たり前じゃねえか」

「じゃあ!東京なんて、あっという間だな!!」

「‥‥‥!」

「この海、もちろん東京まで繋がってるんだろ?」

「だろうな‥」

「ヨシ!じゃあ淋しくなったら、海を見に来よう!!」

「なんで?」

「この海を泳いで行けば、コメに会えるから!この海で繋がってるんだと思えば、めちゃくちゃ近く感じるぞ‥!!」

「ぷっはははは‥!」

お前のそういう単純思考が好き。

って、
言おうと思ったけど‥「好き」って言葉はもう少し先に取っておこう。と思った。


「なぁ‥コメ、あれやっていいか?」

「ん?」

「夕日に向かってバカヤロー!って叫ぶやつ」

「ああ‥よくドラマとかでやってるやつな」


んふふっ、と満足げな顔をしたゼットンは波打際ギリギリまで駆け寄った。

すうっと息を思いきり吸って、そして叫んだー


「コメ〜!!!大好きだぁあああ〜!!!」


「お、おい‥ばか‥」

「はぁースッキリ!」

照れて赤くなったのは俺の方で。
もちろん周りには誰もいなかったけれど、嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。


「なあ、コメ‥俺、お前が東京に行ったら時々、こうやって海に来て叫ぶからな!コメに届くようにデッカイ声で叫ぶからな‥!ガハハハハ!!」

「‥ああ」

そっとゼットンに寄り添って手を握った。

今日で最後、
思わないように
考えないようにしていた。
でもふいに目から溢れる熱い雫ー

俯きこぼれ落ちる涙。

「コメ‥この街を去る‥お前が‥泣いてどうすんだよ‥」

と言ったゼットンもまたボロボロと涙を流して情けない顔で泣いていた。


「ぷっ‥お前、本当不細工だな‥」

「なっ‥コメェエ‥!自分の恋人にそりゃないだろっ〜!!」


ゼットンに肩を優しく抱かれて、俺達は波打際をずっとずっとどこまでも歩いた。


「ゼットン‥浮気すんなよ‥」

「するわけねぇだろ〜!そんなことより、コメが美人だから‥そっちのが心配だぁあ‥!!」

「あはは‥!お前みたいな強烈な恋人がいたら、浮気なんてする気もないわ。お前といるのが一番楽しいぜ。」

「コメェ‥」


またボロボロと泣き出した涙もろいゼットンに、俺も海に向かって思いきり叫んだ。



「好きだー!」

「‥コメ!」

「これで満足だろ?」


本当なら今にも泣きそうだった。
でも、無理矢理に笑顔を作って笑ってみせた。

どうせ最後なら思いきり笑って別れたい。

遠距離になるけれど、淋しくなんてない。
お前が生きてる限り。

この海が永遠にある限り、俺達は繋がっていられる。

‥そう信じたい。


瞳を閉じて、
寒い冬の海で抱き合ってキスをして、

そして二人で思いきり笑った。

無理矢理、笑ってやった。

「お前なー‥変な顔するなよー!笑いすぎて腹がよじれる‥」

「なっ‥そりゃないぜ、コメ‥!いたって普通の真顔だぞ!!」


うりゃ!!と気合いを入れた声を出してゼットンは俺を抱えて、果てしなく海沿いを走った。

砂浜に足を取られて、二人して倒れこんで思いきり笑って‥


ー俺達は終わった。

*********


俺がいよいよ、東京へ向かう時もゼットンは現れなかった。

一日10時間の勉強をしてるゼットンには無理はさせたくなかった‥だから、俺なんかの見送りなんか来なくていいんだ。
そう言い聞かせた。

最後に海でしたキスは思い出すと唇が熱くなり、切ない気持ちになる。

駅のホームに一人立ち尽くす。

「さよなら、俺の好きな街‥さよなら、俺の大好きな恋人‥」

心の中で呟いて、
新幹線に乗り込んだ。


車内に乗り込み、椅子に腰を降ろして窓の外を見る。

心のどこかで期待していたー
ゼットンが来るんではないかと‥。

無情にも電車は走りだし、俺と恋人を容赦なく切り離す。
距離が遠くなるに連れて目が熱くなる。

大好きだ
大好きだ
大好きだ

ずっと一緒にいたかった‥





「すみません‥となり、空いてますか?」


「あっ‥空いてますよ、どうぞ‥‥‥‥えっ?」


「コメ‥!」

「ゼットン‥お前‥?」

ニヤリと笑ったゼットンが何故か東京行きの電車の車内にちゃっかり乗っていた。

Vサインをして、
「コメを東京まで送りたかったんだ!」と、ドカッととなりに座った。

「‥全く、もうお前って奴は‥来ないと思ってた‥」

「サプラーイズ!!」

「バーカ‥」

嬉しくて
嬉しくて
たまらねえよ‥


俺達は東京までの間中、ずっと手を繋いで子供のように眠りについた。

それはまるで屋上にいた頃を思い出すかのような、極上のひとときだった。


end

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