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□このは
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好きなのに離れなければならないことほど


辛いものはないー


二人は別れを選んだ。


『このは』



「ねえ、秀吉‥なんで好き同士なのに別れなきゃならないのかな‥。」

「ん、ああ‥ゼットンとコメの事か。」

「うん‥あんなにお似合いなのに‥あんなに好きあってるのに‥なんで別れる事を選んだんだろう。」

「お前なら耐えられないだろ?」

「当たり前だよ、秀吉のいない生活なんて‥考えられないよ‥。なのにどうしてあの二人は‥」

「本人達にしか解りえない事があるんだろう。」



屋上に行くと、
いつもゼットンの横にはコメがいて。

そんな二人を見るとなぜかほっと安心した気分になって。

ああ、今日も仲がいいな。よかったな。なんて‥親心のように思って。



でも、

ゼットンが地元に残り、コメは東京に行き、

二人は遠距離恋愛をするより、


別れの道を選んだ。


まだお互い好きで好きで堪らないはずなのに。




卒業してから半年。

俺と秀吉は二人暮らしを始めて、たまにコメの勤めるバーへ顔を出していた。

でも‥

ゼットンの話題に触れる事は出来なかった。

コメは何事もなかったように振る舞い、何かを忘れようと一生懸命働いているようにみえた。


客の中には、いかにもコメ目当ての男性客が何人もいて、俺達はそのことが何より気掛かりで仕方なかった。


ゼットン‥本当にいいのかよ、このままで。

コメ、他の奴に取られちまうぞ。

夜の東京には、コメを狙った野獣共がうようよといるんだぜ。



久しぶりに秀吉とコメの勤めるバーへ行った。

「いらっしゃい。秀吉、マサ‥久しぶりだな。」

「コメ、頑張ってるか?」

「ん、まぁまぁな‥」


ちょっと痩せた感じのコメはどうも無理をしているように思えた。


コメの勤めるバーは、芸能界や業界人が多くコメは美人な見習いバーテンがいると密かな噂になっていた。


俺達の隣りに座っているいかにも業界人らしき男がヒソヒソと仲間内でこんな話をしていた。


「ここの見習いバーテンの米崎くん‥金さえ払えば、させてくれるらしいぞ」
「マジですか!」
「実は俺、狙ってたんだよなぁ‥」



ー黙々とカクテルを飲んでいた秀吉の目つきが変わった。


「ひ‥秀吉‥今の話‥」

「マサ‥今の話‥ゼットンには言うなよ‥」

「うん、口が裂けても言えねえよ」

秀吉が立ち上がり、帰ると言い出した。

「お、秀吉もう帰るのか?」

「コメ‥お前‥いや、なんでもない‥」

「マサもまた来てくれよな」

「あ、ああ‥がんばれよ、コメ!」


秀吉の背中が怒ってる。
そりゃあそうだ。

大切な友人が好きでもない男に金で抱かれていると言う話を聞けば、黙っていられない。

「秀吉‥コメが仕事終わるまで隠れてるつもりなんだね。」

「当たり前だ」


真相を確かめたかった。

コメの為に、
ゼットンの為に、


俺達の友情の為に。


深夜3時。

バーの裏口で見張りをしていた俺達は、ようやく出てきたコメの跡をつけた。

5分くらい歩いた所で、さっきまでバーの中にいた業界人らしき男と落ち合うコメ。

業界人らしき男はコメの肩を抱き、ホテル街へとコメを連れて行った。


「秀吉っ、とめなきゃ‥!!」

「ああ‥こりゃ‥やべえな‥」


ホテルに入る寸前で、秀吉は相手の男を一撃で殴り倒しコメの腕を無理矢理掴んで、明るい場所まで引っ張ってきた。


「‥なんなんだよ、お前ら。なんで邪魔すんだよ‥」
ようやくコメが口を開いた。


「ばかやろ‥」

秀吉がコメに殴りかかった。


「秀吉、痛ぇな‥何すんだよ‥邪魔したり、殴ったり‥嫌がらせか?」


「痛いだろ?俺達の心はもっと痛えんだよ‥コメ‥知らない男に抱かれて楽しいか‥?ああっ?いつからそんな奴になったんだよテメェ‥!!」

秀吉はコメの胸ぐらをグッと掴んで怒鳴りちらした。

「お前ら幸せカップルには‥わかんねーよ‥」


ドカッ‥!!

秀吉の拳が再びコメの頬に入った。

「目を覚ませよ‥コメ!お前、好きでもない奴に抱かれるような奴じゃねえだろ‥!!」

「コメ‥俺達が幸せカップルに見えるか‥?俺達もお前とゼットンが幸せカップルに見えてたんだぜ‥でもなぁ、お前からそれを手放したんだ‥!!」

秀吉にボコボコに殴られたコメは、一粒の涙を流してこう言った。


「だってよ‥仕方ねえじゃねえか‥離れて暮らす事のほうが辛いと思ったんだよ‥」

「別れるほうがもっと辛いって、思わなかったのかよ‥お前達の恋愛ってそんなものだったのかよ‥」

「っ‥‥ゼットン」
コメはその場で激しく嗚咽した。

そして、ことのいきさつ俺達に全て話してくれた。


「ゼットンと別れて、淋しくて淋しくて‥そんな時にお客さんに優しくしてもらってさ‥思わずその優しさに流されちまった‥そしたらな、そいつヤッた後に金をポンと置いて出ていきやがってな‥。」

「コメは素直だからな‥上辺だけの優しさに騙されたわけだ‥」

「ふっ、マサに言われたくねーよ!」

「なんだとうっ!?」


まぁまぁ‥と、さっきまで怒り狂っていた秀吉が仲介に入る。

「コメ‥ヤケになってあんな事をしてたんだな。」

「ああ‥それもあるし、やっぱり淋しさを埋める為に温もりだけを求めてしまったのかもしれないな‥」


コメの言葉には妙に説得力があって‥俺達は思わず納得してしまった。


「秀吉、マサ‥ありがとうな。俺‥もうこんな事、しねえから‥」

「コメ‥もしまた温もりが欲しくなったら?」

コメは、クスッと笑って

「俺からゼットンに会いに行く!」と宣言した。




その頃、
なにも知らないゼットンは、指輪の入った小さな箱を握りしめ‥東京行きの深夜バスに揺られコメに会いに行く途中だった。


end

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