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□月光花
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毎月、
お前の命日になると必ずお前の墓へ行き、丁寧に墓石を拭いて、お前が好きだった花とセブンスターを供える。


なぁ‥鉄生‥


お前の墓石を綺麗に拭いてるとなぁ‥

まるでお前が



「バカ、どこ拭いてんだよっ‥変態ヤロー!」


って、



言ってる気がしてならねぇから。

俺は思わず苦笑いしてしまうんだぜ。


『月光花』


しかし、いつ来てもお前の墓には沢山の花や缶コーヒー、煙草がお供えしてあるな‥。


お前がいかに皆に愛され、いい奴だったのか、毎月ここにくるたび思いしらされるぜ。


たださ‥
俺、お前んちにはまだ行けてないんだわ。


お前の仏壇に手を合わせに行く勇気が未だに持てねー。


だってよ‥

お前の遺影なんて見たかねぇから。

いつだって、




思い出すのは


お前の笑顔で。


「このカニタマヤロー!」って、怒ってる顔で。


ニカッと笑ういつもの強気な顔で。



時が止まったままのお前の写真は見たかねぇんだよ。


なぁ鉄生‥


早く俺を迎えに来てくれよ。

お前のいないこの世界はあまりにも灰色で。


俺はお前という生き甲斐を無くしてしまって、


正直、生きるのが辛い。






‥なんてな。



こんな弱音吐いたら、
お前にどつかれちまうか




「お前は俺の分も長生きしろ、そしてクソジジィになった頃に迎えにいってやる‥!!」


なんて、
鼻息を荒くして言いそうだよな‥鉄生。



俺にはお前しかいないから。

毎月、
お前に会いにくるよ。

次はどんな花がいい?


セブンスターはやっぱりカートンじゃなきゃダメか?


墓石の前に座りこんで、数時間ー。


傍からみれば、なにしてんだ?と思われそうな光景だけど‥俺にとってはお前との大切な時間なんだ‥。



なぁ鉄生‥


俺が歳を取って、
俺自身の寿命が短いと解った時、俺‥遺言書にこう書いていいか?








「河内鉄生と同じ墓に入れてくれ」





せめて、
天国では幸せになろうな。


つーか、
お前は若いまんまだけど‥俺はジジィで。


それでもいいか‥鉄生?



それでも‥いいよな。



じゃあ、また来月な。





今夜は月が綺麗だ。


煙草に火を点けて、墓石に添えるー


暗闇に燈るのは煙草の僅かな火種のみ。
俺はバイクに戻り、ふとタイヤに目をやるとそこにはパンクの後があった。




「‥なんだよ、鉄生。

俺に帰るな!って‥言ってるのかよ‥この甘ったれが‥」


何故、いつ、パンクしたのか解らなかったが、これはきっと鉄生の悪戯なんだと‥俺は思わず苦笑いをした。


End
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