芸大バンド《L'Ange》

□六章
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「なあ、意味ないやん。ヴォーカルがおらんのやで? 練習してどないすんねん」
 予選を通過し、本番である学生の祭典は迫っている。だが河原で練習をするのは四人だ。バックミュージックばかりで歌詞がのらない。のるはずもない。恵がいないのだ。
「かといって、私たちに出来るのは腕を磨くことしかない」
 ヴォーカルをやめると叫んだあの日から、恵は消えた。たかが声変わりだろ、となだめていたのだが、たかが?、と余計にキレて、そのまま静臣の家にも来ない。
「学生課も融通きかねえよなー」恵の実家を問い合わせたのだが、個人情報保護だとかで教えてもらえなかった。「あいつがいねえと良い音も降ってこねえぜ」
「そういうのが重かったのではないかな」
 朔夜が痛いところをつく。
「つーか朔夜は冷静だな。あんだけメグメグ言ってたくせによ」
「メグは来ると信じているからね」
 さらっと言ってのける朔夜は、まだ続いているらしいメル友と、かちかちぴろろん始めた。
「敦、カウント」
 それを邪魔するように、静臣は始めから演奏をやり直す。
「へいへい」敦はスティックを打ち合わせる。「1234」
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