芸大バンド《L'Ange》

□四章
1ページ/3ページ

「MD? オミはいつの時代の人間だね」
「いちいちむかつく言い方すんじゃねえよ、朔夜」
 あいかわらず静臣と朔夜の相性は悪いままだが、メンバーが五人となった芸大バンドは、目的を見つけて活動を始めている。
 夏の学生の祭典で優勝することだ。あちこちの大学からバンドマンが集うビッグイベントで、業界人もスカウトに紛れ込んでいるらしい。
 とりあえず予選突破をしないと話にならないので、今はその会議をファミレスで行っていた。
「データを送るのだよ。メールに添付して送信するのだ」
「じゃパソコンで録音すんのか?」
 そこに注文していた料理が届き、朔夜はパフェを受け取って答えた。
「まあそうだが、音響のいいところで録ったほうがいいだろうね。スタジオを予約したまえ」
 静臣はラーメンセットの半チャーハンを恵に渡す。クマはステーキ定食を、敦は単品でたこ焼きとちらし寿司を食べていた。
「そりゃ良かったぜ。もう手配してあんだ」
「お給料でましたからね」はふはふチャーハンを食べながら恵は朔夜に頭を下げる。「代わりにシフト入ってくれた朔夜先輩のおかげです」
「いや構わないのだよ。メグにあんな肉体労働をさせるオミの気がしれないね」
「でも筋肉ついたんですよ」恵がマッチョのポーズをスプーンを持ったままする。「わかります?」
「うんうん」
 四人は笑顔で頷いてやって、内心、どこに筋肉があるんだとつっこんだ。ライブハウスでのバイトは、アンプやら重機の運搬もあるため、静臣は確かに筋肉がついてきている。が、体質の問題だろう、恵は可憐なままだ。それでいいのだが。
「で、スタジオはいつ入れるん?」敦が割り箸をドラムスティックのように振った。「あー久しぶりや、わくわくすんなあ」
「行儀が悪い」
 クマに箸を奪われた敦は、あっちゃーと自身の額を叩いた。
「明後日だぜ」
「むぐっ」パフェの溶けたアイスをグラスを傾けて飲んでいた朔夜がむせた。「明後日と言ったかね?」
「〆切はまだ先だろう」
「そやそや、いきなりすぎんでー」
「たぶん、学生の祭典に向けて、みんなスタジオをおさえてるんです」恵が訳を話す。「オミ先輩とあちこち回ったんですけど、もう〆切前のいい時期は空きがありませんでした」
 静臣はラーメンをすすりあげてスープを飲み干し、手を合わせる。
「そういうわけで、明後日だ。これもキャンセルが出たから取れたくらいなんだぜ」
「拝んで頼まれては断れないというものだよ」
「違えよっ、ごちそうさましてるだけだろーが」
「ごちそうさまでした」
 恵も食べ終わり、同じく手を合わせるが、朔夜がからかうのは静臣のみである。油に光る恵の唇を、クマがナプキンでふいてやった。敦は別の割り箸を出してたこ焼きをつつく。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ