芸大バンド《L'Ange》

□四章
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「きました!」
「またかいなっ」
 恵の声に敦は反射でメモを渡した。
「そうじゃなくて」
 否定の言葉に、クマがメモを白紙のページにめくる。先ほどの歌詞が邪魔なのでは、と思ったようだが、違うらしい。頬を膨らませた恵がペンを走らせる。
「やりましたね!」
 そう言って見せたのは、予選通過の文字。三秒ほどの沈黙が、歓声に変わる。そういえば今日集合したのは、結果のメールを待つためだったはずなのに、すっかり音楽漬けになっていた。
「てか、何だこのバンド名」
 朔夜のパソコンでメールを見せてもらうと、宛先がL'Ange様とある。
「ランジュと読むのだよ。フランス語で《天使》の意味だ」
「アンジュじゃなかったか」
 クマが顎に手をあてる。それならケーキ屋の名前で静臣も聞いたことがあった。
「それだと《ある天使》の意味で特定化されないのだ。ぼくたちの天使は一人だからね」
「言ってて恥ずかしくねえ?」
 静臣は引きぎみに言った。
「これでもモンナンジュにするのは堪えたのだよ」うろんな顔を返すと、朔夜が訳す。「《ぼくの天使》《可愛い人》って意味だ」
「むはー」
 敦がもだえている。
「chant de l'angeで《天使の歌声》となる。文句があるなら受け付けるがどうだね?」
 きょとんとする恵を見て、静臣は肩をすくめた。文句も何も、ぴったりすぎるという話。
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