捨てられ王子と古城の吸血鬼

□捨てられ王子と古城の吸血鬼
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「なにぶん古い城でして、時々見て回ってはいるんですが、調度品に痛みがある物もあるかも知れませんが、何卒ご容赦を」
そう腰を折ったルーシーに、部屋に案内された王子は唖然として声が出せなかった。
なぜなら王子達が通された部屋は、まるで王子が王宮で使っていた部屋そのものだったからだ。

「オレの部屋の中を見たのか!?」
王子にそう問い質されて、ルーシーは眉を上げた。
「王子のですか?・・私は、見たことはありませんが?」
「王子、それはあり得ませんっ」
ルーシーの返事に被せるように否定したのはモモだった。


親族でさえ、王や王子の寝室へは簡単に入れるものでは無い。
暗殺防止のための何重もの警備を掻い潜り、それも部屋の中にある調度品を短時間でしっかりと憶えるのは至難の技だし、そこまでする必要は無い。
いくら王子を預かるからと言って、ルーシーに王子の部屋の中をすっかりそのまま真似する必要など、無いのだ。
「どこか御気に召しませんでしたか?」
心配そうにルーシーが尋ねると、王子は確かにバカな事を言ったと「何でも無い」と手を振った。
「そうですか。何か必要な物があればいつでも言って下さい。では、私はこれで」
ルーシーが扉を閉めて去った後、王子とモモは顔を見合わせた。
どういう事だろうか。
有り得ない。
そう思っても、鏡の場所も、チェストの形も、同じ壁の位置に飾られた似たような風景画も。
そして、何より、ベッドの位置だ。
全て、自分の部屋と同じ作りや配置になっているのだ。

「こんなイタズラが・・」
「王子、これはイタズラなんかじゃ・・ただの偶然ですよ」
「偶然・・」

腑に落ちない思いに、王子は顔を曇らせたが、考えるより何より、今は体を休ませたかった。
丸1日半、馬車に揺られた体は、疲労がピークに達していた。

「さあ、もう休みましょう。明日は家庭教師も来ません。昼までだって夕方までだって寝てていいんですから」
そうモモが笑って、王子も口元を弛めた。


そうだ。もう、王子としての責任を全うしなくてもいいんだ。
この国にとって、オレはもういらない人間になったんだから。
兄王に捨てられたんだから。
「さ、脱いで脱いで」
モモに上着を剥ぎ取られ、王子はクスクスと笑いながらベッドへと倒れた。
「いい。このまま寝る」
「そんな!皺になりますよっ王子ってば」


自由になった。
なにをしても誰に咎められる事もない自由。
誰にも何も期待されない自由。
自由とは、なんと残酷なものか。


「モモ」
「なんですか?」
「もう、王子って呼ぶな」
ベッドにうつ伏せたまま言う王子の言葉に、モモは絶句する。
「な、何言ってんですか」
「もう・・いいんだろ?王子じゃなくて、オレはいいんだ。オレは探さなくちゃ・・王子じゃなくても、必要とされる人間になれるように・・行き方を・・」
ベッドで小さく背を丸める王子の姿に、モモは何て言葉を掛けようかと、両手を握りしめて見つめていると、すぐにベッドから寝息が聞こえてきて、モモはホッと息を吐いた。



一人では大き過ぎるベッドに、まるで小さな子供のように、王子が背中を丸めて寝ている。
そのベッドの脇に膝を抱えてモモは踞った。
「王子・・ゾルク王子様・・っ」
声を殺して泣きながら、モモは自分の服を強く握り締めていた。


新しい何か。
この国境近い辺境の地で、そんな何かを見つけられるのだろうか。
兄王のあまりの仕打ちに、誰でも無いモモが一番衝撃を受け、怒りに我を忘れた。

私は・・
私の王子をこんな目に合わせた兄王を、絶対許さない・・!
絶対に・・!
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