splash!

□splash! 第2話 
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『神様に感謝しなきゃね!』


頭の中で、母さんの声が木霊する。
ミズハシ リュウト、奇跡の生還!
17才で終わる人生をダイブしたオレは、睡蓮の両腕に抱き止められ、あの自転車のようにぐしゃぐしゃに大破せずに済んだ。
九死に一生!!
あの時、睡蓮は一瞬にして水中を作り、落下してきたオレを受け止めたと言う。
そして、オレが生まれる前よりずっと前から、神からの使命を与えられ、あそこでオレが落ちて来るのを待っていた。
『神の思し召しです』
睡蓮に会えて嬉しかった。
新しい人生が花開いた!って歌みたいに、そういう感じ!
『神様に感謝しなきゃね!』
『神の思し召しです』
二人の声が耳元でダブる。
そっか・・オレが奇跡的に助かったのも、睡蓮と出会えたのも、全部、神様のおかげなんだ。


神様・・って?


え?
まさか・・オレの体に無理矢理這入って来たヤツ・・!?
スーツ姿のサラリーマン風の男が目の前に現れる。


こいつに、感謝・・?
思し召し・・?


『神様に感謝し』

「クソックラエダ!!!」
母さんの台詞を遮るようにオレは叫んでいた。




ハッと目を開けると、目の前は暗い天井だった。
微かにカーテンの隙間から街灯の灯が部屋の中へ漏れていた。


夢を見ていた。
この数日のことを夢に見ていた。


自分で自分の体に触れて、汗ダクなのに驚く。
こんなに汗を掻いたのは、いつ以来だ?
心臓がドクドクと弾け、悪夢を・・いや、現実に起こった悲劇を思い出していた。


信じられないことに、睡蓮に両腕を押さえつけられた。
誰かもわからない男に伸し掛かられて、そして・・。
耳の中でドクンドクンと心臓の音が激しく鳴る。
「リュウト」
ひんやりとした革の感触が自分の肩に回され、耳元で睡蓮が囁いた。
「ずっと傍にいます」
その言葉に激しく打ち鳴らされていた鼓動がしだいに静かになる。
リュウトの髪を梳き、そこへキスを落とす睡蓮。
「絶対?」
「絶対です」
リュウトは、少しひんやりする睡蓮の腕の中で、再び睡蓮に髪を梳かれ、体の力を抜いていった。
目を瞑る間際、リュウトは「クソックラエダ・・」と小さく呟いた。











今朝の予報では、降水確率30%。
雨が降ったり止んだりのどんよりとした天気。
「チッまた降ってきたか」
車のドアを開けた憂火は舌打ちしながら中折れ帽のツバを持ち上げ、上目遣いに空を見上げた。
「傘いりますか?」
暮が車の後部シートを振り返り、ゴソゴソとシートの下から傘を取り出す。
「あん?傘なんか差すかよ。ありゃ女の使うもんだ」
傘を片手に、暮は眉間に皺を寄せて反論する。
「男も普通に使います」
憂火に続いて、車を降りた暮はパッと傘を差した。
メンインブラック調の二人が車を降りたのは、彼らの『仕事』のためだ。
この季節になると、河川の氾濫が毎年起きる。それも一度や二度では無い。
上流で降り続く長雨や突然の豪雨のせいで、川の水が岸壁の泥や石を巻き込み、勢い良く下へ下へと流れてくるのだ。
「天気ってのは優柔不断だ。みんなでせちがっちゃあーだこーだと騒いでる」
「見てください」
暮が指差して、憂火の視線を先へ移した。
河川敷の水際に1列に並んだ人影。
白モヤにぼんやりと並んだ(足の無い)人らしき行列の群は300mはありそうだった。
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