戦国BL

□手紙
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そうして、鷹峰にしてはグズグズと悩み、そのまま、ひと月が過ぎようとしていた。
そんなある日に。
「おーい。鷹峰、俺だ。蒼井だ」
アキヒサの城下町から、3里程離れた村はずれの小さな小屋に、身を隠して住んでいた鷹峰。
そこへ突然、蒼井が訪ねて来たのだ。
蒼井の出現に驚いた鷹峰は、小屋の入り口の戸の前で身構えると、刀の柄を握り居合いの型をとった。
蒼井と差しで勝負した事は無かったが、その実力は控えめに言っても蒼井の方がまだ上だった。
自分と蒼井の間に戸板の引き戸があるにも拘らず、向こう側にいる蒼井が透けて見える程、蒼井の存在感ははっきりとしていた。
間合いを計るように足を前ににじり出し、鷹峰は静かに「何の用だ?」と答えた。
「お前の愛しいアンちゃんからお手紙だ」
最後まで言い終わらない内に、鷹峰は勢い良く戸を引き開いた。
「読ませろ」
と、右手を無防備に蒼井に差し出してくる鷹峰の態度に、蒼井は噴き出して笑い始める。
「なんだよ、お前さ〜。俺だって久しぶりなのに〜、何その一も二も無く、な態度っ」
「いいから、寄越せ!」
蒼井が胸の襟に挟んでいた封書を抜き出し、鷹峰に差し出す。
「まったく・・。これでも心配したんだぜ?鞍馬にも帰ってねえし。和尚は肩落としてるし。さすがに俺も一旦鞍馬に帰ったってのに、お前はこんなど田舎で、いったい何してんだよ?」
「何も。ここにいるだけだ」
蒼井の質問に愛想無く答え、鷹峰はアンジからの手紙を開いた。
「ハイハイ。あー恐い恐い」
そう言って、蒼井は両手を頭の後ろで組んで、小屋の前に寝転がった。
鷹峰は、急いで文字に目を走らせている。
その目が時々「?」を描くが、蒼井にはだいたいアンジが何を書いたのかは読めていた。
「いつって書いてある?」
蒼井の質問に鷹峰は「今月の30日だ」と答えた。
蒼井は「そうか」と呟き、ゆっくりと瞬きした。
鷹峰は食い入る様にアンジからの手紙に、何度も目を走らせている。
何度も何度もその文字を目で指で追い、読み終えると元の形へ綺麗に畳み直して、それを自分の懐へと仕舞った。
「どうする?受けるのか?」
蒼井の質問に鷹峰は素早く「受ける」と答えた。
その答えに満足した蒼井はコクコクと頷き、アンジの近況を伝えた。
「俺が、このひと月みっちりと刀の使い方を叩き込んだ。ああ見えてアンちゃん、努力家でな。一日五百回素振りをこなし、あの身軽さで、今じゃ刀片手に、まるで忍びの様に壁を飛び降り出来る」
「うそだろ・・」
「いや〜、ほんと。俺にはまるで歯が立たないってアンちゃん悔しがってるけどネ。いい筋してたヨ?さてと」
と、蒼井は両手を体の前に振る反動で跳ね起き、立ち上がると鷹峰の前に立った。
その体には一分の隙も無い。
敵意は無くただそこに立たれているだけでも、相当な威圧感があった。
蒼井を敵にするなら、間合い3間分までに絶対近づけたくない相手だ。
「お前さ。言っとくけど。アンちゃんを殺したら、その瞬間お前の首を俺が刎ねるから。いや、傷一つつけてみろよ?殺してやるからな」
脅し文句に、ニヤリと口元を歪ませて蒼井は「じゃあな」と鷹峰に背を向けた。
鷹峰は、小さくなる蒼井の後ろ姿を見送った後、小屋の中で再びアンジからの手紙を懐から出した。
そっとその匂いを嗅いでみる。
アンジの匂いがする筈も無いが、アンジが手にしていたと思うだけで、温もりを感じずにはいられなかった。
アンジに会える。
それが、これ程、鷹峰の心を踊らせるとは、自身も予想だにしていなかった。
「アンジ・・」
抱きたい。
抱き締めたい。
アンジの頬に唇に触れて、あの肌を自分の体の下で裸に剥き、熱く濡れた窄まりに昂る欲望を埋め込みたい。
そう考えただけで、鷹峰の下腹は酷く熱く窮屈になっていく。

アンジからの手紙は、『これで最後』と綴ってあった。
鷹峰はアンジの手紙の匂いを嗅ぎながら、己の欲棒を握り込んだ。



『鷹峰元気?僕は蒼井に剣を教えて貰って、強くなったよ。
鷹峰、また僕を攫いに来る?もし、その時は、僕がアキヒサの腕に代わり、鷹峰の相手になります。
僕はアキヒサの傍にいると決めたから。

P,S 今月の30日に来て下さい。それを最後に僕はもう二度と城の外へ出る事は無いと思います。
今まで、僕を護ってくれてありがとう。
大好きな鷹峰へ
アンジより』



所々に入っている『?』に鷹峰は、何かの暗号かと深読みした。

これは・・攫ってくれと言う意味だよな・・?

がぜん。
鷹峰の目にやる気が漲る。
なぜ、アキヒサの代わりにアンジが自分の相手になろうとしているのか、鷹峰にはわからなかったし、蒼井はああは言ったが、たぶんひと月鍛えたアンジよりアキヒサの方が強いに決まっているだろう。
だが、これは、アンジの脱出の計画なんだろう。
そう解釈した鷹峰は、居ても立ってもいられない。
着物を脱ぎ捨て下帯一枚になると、勃起してるのも構わず、スクワットを始めた鷹峰だった。
 
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