戦国BL

□tukinonaiyoruni
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鞍馬の門を潜った後、僕を背中から下した鷹峰は門の近くにある井戸から水を汲み上げると、僕の目の前に立った。
「え」
まさか!と思った瞬間、桶の水を勢い良くぶっかけられる。
「ツメタ!!」
山の水は冷たい、それも凍るような冷たさだ。
あまりの冷たさに、自分で自分の肩を抱きピョンピョンと飛び上がってしまった。
鷹峰は次の桶の水を自分の頭から被る。
見ると鷹峰の頭から、まるで湯気が上っていた。
冷水が一瞬で沸騰したように。
それからまた次の桶に水を汲み、再び僕に浴びせ、次に自分が水を被り、を、素早く淡々と繰り返した。
「さ、寒いっ凍っちゃうよっ」
「大丈夫だ。もっと寒い時にやってもオレは凍った事はない。我慢しろ」
鷹峰が無表情で、ザバザバとこの水浴びを10数回も繰り返した。
冷水に体温を奪われた体には、体力も殆ど残っていない。
連続して叩き付けられる水圧に耐え切れず、膝から横倒しに泥の中に崩れ落ちてしまった。
そこで、鷹峰が正気に戻ったかのように、やっと動きを止め桶から手を放した。
「アンジ、大丈夫か!?」
ぐったりと地面に倒れ込んだ僕の体を鷹峰が泥塗れになりながら抱き起こした。
「・・大丈夫じゃない」
服が水を吸ったせいで、身体が余計に重く感じられた。
「もう死にそうだよ・・」
「悪かった。穢れを落とそうと・・。いや、あいつの匂いを落としたかったんだ。すまなかった」
鷹峰が僕を胸に抱き締めて、髪にキスした。
「オレがついていながら、こんな事になるなんて・・悪かったアンジ。辛かったろう」
濡れた体に鷹峰の体温がやさしく伝わる。
その熱に涙がこみ上げてくる。
「鷹峰・・僕、つよくなりたい」
鷹峰の胸に顔を埋めて呟くと、鷹峰が僕の髪を梳いて、「ああ」とかなんとか答える。
「鷹峰・・?」
顔を上げると、「見るな」と、目の前を手で塞がれた。
鷹峰の呼吸が荒い。
胸が時々ひくつくように上下して、まるで、泣いているみたいだった。
いや、涙を堪えているような息が漏れた。
けれど僕の目は鷹峰の手で塞がれていたせいで、何も見ることは出来なかった。
「鷹峰・・」
僕は鷹峰の背中に手を回し、ギュッと抱き締めた。
暫くそのまま息を殺し、熱を分け合うように抱き合っていた。

が、それだけで済む鷹峰では無い。

「アンジ」
思い立ったように、鷹峰はアンジを抱えて立ち上がると早足で歩き出した。
「え、どこ行くの鷹峰」
泥だらけだというのに、構わず『離れ』の室内へ上がると、アンジの帯を引き千切らん勢いで解き、あっという間に着物を剥ぎ取ると、アンジを畳の上に寝転がした。
「ちょ、待って!鷹峰っ」
畳の上で座ったままアンジが後退りする。
「待たん」
鷹峰もまた、びしょ濡れの作務衣を板間へ放り投げ、後退するアンジを捕まえると、その上に伸し掛かった。
「待ってって!!」
「待たん」
膝の間に入られまいと横向きになりアンジは足を閉じたが、鷹峰の腕力には抵抗も空しく両膝を簡単に開かされてしまう。
「今だけは許して・・っ」
返事する時間も惜しく思うのか、早急に鷹峰がアンジの身体中に唇を這わせていく。
「た、かみね・・っ」
肌に直に触れるそれは、優しくて、優しすぎるくらい優しくて、甘い愛撫で、アンジの全身が次第に火照っていく。
それでも、身体を触られる感覚は、数時間前まで彩瀬に抱かれていたものをアンジに生々しく思い出させ、脳内を混乱させる。
これは鷹峰で、彩瀬じゃない。
それなのに、恐怖に涙がこみ上げてくる。
「た、鷹峰っ今日は・・許して・・。お願いだ・・鷹峰・・」
彩瀬を思い出してしまう。
あの目を、体を、声を、息づかいを。

「アンジ。オレを見ろ」

宙を彷徨っていたアンジの目が鷹峰の声に呼ばれ、元に戻ってくる。
「鷹峰・・っこわい・・僕こわいよ・・」
鷹峰はアンジを抱き起こし、自分の膝の上へ股がらせると、その唇を優しく吸った。
軽く唇を食むように、そしてゆっくり舌で舌を絡め合わせ、濡れた唇同士を甘く押し付け、アンジの名を呼んだ。
「忘れろ。アンジ、オレを見ろ。オレが全部忘れさせてやる。お前の中をオレだけにしてやる」
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