戦国BL

□yumenomatayume
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あれから、何度も高熱と悪夢にうなされ、体の自由を失い、床に伏している。
そう、ひと月も経とうか。
「どうも体が上手くない。まだまだ剣は振れそうにないのだが・・」
アキヒサが右手を上げて指を動かした。
カクカクと指の関節が不自然な動きをしながら曲がっていく。
「もう一度、身体を鍛え直すまでには時間が掛かる。だが、それを待つ時間が惜しくなった。彩瀬、人を連れて来て欲しい」
「わかりました。して誰々を?」
「アンジ。水沢杏慈を」





遠くで烏の鳴く声がした。

御山の烏は賢い。
決まった時間に鳴き、決まった時間に巣へ帰る。
御山を見張るように、侵入者があれば目を光らせ、ジッと覗く。

鷹峰は不自然な鳴き声に耳を澄ませた。
他に何か言っていないか聞き取るためだ。
この御山に何かが起これば、それは少なからず鞍馬の一大事になる。

しかし、鳴き声はその一言だけだった。
静まり返る山の中、鷹峰は不振に思いながらも、寺への道を駆け上った。
もうすぐ夜になる。
さすがに闇夜の中を走るのは利口ではない。
それに、早くアンジにうまい物を食わせてやりたかった。
御山ではなかなか口に出来ない甘い菓子や、暖かい綿入りの着物、滋養のつく食べ物などを、町の市(場)で仕入れて来たのだ。
背中に背負った風呂敷はあれやこれやと買い物するうちに30キロを超えていた。
だが、アンジを担いで登った時に比べれば楽勝だ。
道無き道をスイスイと登っていく。
その姿に、彩瀬は舌を巻いた。

これが鞍馬か・・!
世の中には何かに長けた人間がいるものだが、肉体派で、これだけの動きが出来る者も久しぶりに見たな・・。

彩瀬は鷹峰を追っていた。
忍の身軽さで登った木の枝から、すぐ側の木の枝に居た烏が妙な鳴き声を上げた。
あり得ない事ではない。
この山は鞍馬だ。
素早く小柄を投げて仕留めたが、そこで鷹峰の足が止まり、彩瀬は息を止めた。
その間、6分。
気配を無にするのは苦ではない。
一切の思考を止め、身体の細部まで力を抜き、心臓さえも極限までゆっくりと打たせる。
何も感じず、頭の中を真っ白にし、数分の仮死を作り出す。
鷹峰の警戒が解かれ、彩瀬は深く息を吸い込んだ。

やれやれ・・。
鞍馬の僧兵とは厄介な。

それでも、彩瀬とて、忍としてのプライドも自負もある。
鷹峰を見て武者震いしたのも事実。
だが、彩瀬の仕事は鷹峰とやり合う事ではない。
アキヒサが望むのは、
『アンジを連れて戻ること』
ただそれのみ。

鷹峰の背が見え隠れする程度の距離を保ち、寺の入り口まで辿り着くが、なんとも殺気立った門扉を前に後退りする。
これは鷹峰の気だろうか?
何かを警戒し、怒気を放っているようにも感じた。
無理は無用だ。
坊主達が寝静まるまで、彩瀬は身を隠す事にした。
しかし、夜になり、明らかにその怒気が強くなっている。
何者をもこの場所へ近づく事を許さないような、強い念を、彩瀬は感じていた。
だが、入らねば、何も得るものは無いのだ。
ここで惑っていても埒が明かない。
彩瀬は城のように高い門の上へ飛び上がり、境内を見渡した。
闇夜の庭園に、点々と石灯籠。
奥屋には明かりは無く、シンと静まり返っていた。
が、一つだけ異様な雰囲気を放つ部屋がある。
明らかに他と違うその部屋へと彩瀬は潜めて近づいた。
暗闇で人が蠢いている。
楽々と彩瀬は天井裏に入り込み、中の様子を伺う。

まさかと思う。

そのまさか。

鷹峰が、少年の頭を両手で掴み、自分の股間へ押しつけて、あれをしゃぶらせていた。
驚く程の事では無い。
だが、鷹峰の異様な昂りに、彩瀬は毒気を抜かれてしまう。

「アンジっアンジっ・・・あぁいいっ・・いいぞアンジっ」
鷹峰がどんなに興奮していようとも、端から見たそれは、無理矢理に口の中へモノを突っ込まれた少年にしか見えなかった。
自慰まがい。
居た堪れなさに、いっその事このまま鷹峰を殺してしまおうかと思うが、仕事を増やすのは得策では無いのはわかっていた。
仕方無く、彩瀬は、他人の目合ひを耳にしながら、ここで一眠りする事に決めた。

それが、間違いだった。
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