戦国BL

□matiwabi
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それは、ホームシックさえも忘れるくらいに、僕の中で大きく育っていってた。

「ずっと側にいろ、アンジ」

耳元で囁かれる甘い言葉。
それでいいと思わせるのに十分な響き。
自分という人間がなんなのか?
どうしてこんなことになったのか?
思わない日は一日だって無い。
だけど、この一言で、全てが救われた気がした。
悩まなくていい。
道はある。
一緒に行けばいいだけだ。
アキヒサと一緒に・・それでいい。





戦場の近くまであと十数キロという所に来て、僕は共の者と軍勢から離された。
「ここで待っていろ。片が付いたら迎えに来る」
短いサヨナラの言葉に、はい、と返すしか出来なかった。
離れてく軍勢を見送っているうち、『もしアキヒサが死んだら』と、ふと思った。

そうだ・・・これはゲームじゃない!
自分だけが仮想現実の世界にでも入り込んでしまった気になっていた・・。
自分だけじゃない・・!
アキヒサも現実にいる人間なんだ・・!

とうに見えなくなったアキヒサが、最後にどんな顔をしていたかを思い出そうと眼を瞑ってみた。
真っ赤な兜の中にギラギラとした双眸。
笑みも浮かべずここを去ったのは、彼が覚悟を決めて戦場に向かったからだ。
目の前の死に向かって歩いていくアキヒサを思って涙が溢れそうになった。

「ねえ、今は何年なの?」
手の甲で目をこすりながら、側に控えてる少年に聞いてみる。
「え?今年は天正3年ですが・・」
首を傾げて僕を見上げる少年に、僕も首を傾げてしまった。

天正・・?
3年?って・・??
西暦じゃないんだ!?
じゃ、今がいったい何年なのかとか・・歴史とかって・・勉強したことなんて全然役に立たないじゃん・・!
いや、僕が憶えた歴史なんか簡単なやつだけど・・。

もう一度アキヒサの後ろ姿を振り返ってみる。
黒い軍勢はもう小さくなっていた。
急に心細くなる。
その黒い人影が本当に緑に紛れて消えていくまで、僕はただ立ち尽くしていた。


しかし。
それから、3、4 日経ち、何もする事もなくただ待ちわびるだけの時間を過ごしていると、何だかバカらしく思えてきた。

この世界はいったいなんなんだろう?
自分はなぜここにいるんだろう?
どう考えても、意味がわからなかった。
自分がここにいる意味。
この世界に存在する意味。

そう考えて、未来にいた自分もそう考えていたことを思い出してしまう。

なぜうまれてきたんだろう?
なぜ、学校に行かなければならないんだろう?

毎日の繰り返し。
陰湿なイジメ。
無反応。
人を見下す眼。

誰も信じられなかった。
本当の敵には立ち向かうことも出来ず、一人孤独と闘ってた。

そうだ。
あの頃は、自分がどんな人間かも忘れるくらい、世界を否定するしかなかったんだ。


僕はアキヒサに会えて、自由を貰った。
話す自由、動く自由。
ここでは、僕は何でも話せた。
アキヒサが話を聞いてくれた。
もしかしたら、本当に本物の神様が僕にもう一度やり直すチャンスをくれたのかも知れない。
だとしたら、僕はこの世界に来た意味がある。
それは僕に出来る何かがここにはあるってことかも知れない。

アキヒサが恋しかった。
あの優しい手が欲しい。
他愛もないことで笑い合った時間がひどく懐かしく思えた。


そして、さらに2日経った。
この世界で何か意味のあることをしたい、と思い詰めてみても今はただアキヒサを待つのみ。
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