戦国BL

□dezome
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そいつが声を荒げる、が、言われている方は微動だにしない。

2秒、1秒かも知れない。

間を空けて男が答えた。

「間違って生まれた、女子ではないでしょうか」

「間違いと?」

「左様」

そいつが急に僕を振り返る。

「数奇な・・・女子か」

「は!」

男がそいつに力強く返事をした。

僕はそいつに睨まれながら、なにが『は!』だ!と思いながら唇を噛み締めた。

そいつが僕の側にしゃがんで、腕を取る。

「なんと白い腕だ・・・どこの生まれだ?」

確かに僕の腕は細く生っ白い。

不健康そのもの。

だからって僕は決して女なんかじゃない。

ただ子どもの時から喘息があって外で元気に遊べなかった。

それに、この1年、僕は家から出たことがなかったから、だからこんな風なだけだ。

だけど、どうしても『この世界』では僕は男だと思って貰えなかった。

そいつは金ぱくを散りばめた濃紺の袴姿に、隻眼、頭にはどう見ても髷。

「か、神奈川です」

答えた僕にそいつは耳を寄せる。

「何?」

「神奈川県横浜市です」

「・・・」

そいつは後ろの男を振り返り、首を傾げた。

もちろん、後ろの男も袴姿だ。それも鮮やかな紫色。

「知らんな・・・カナガワ・・・どこの川のことじゃ」


外からはいつも聞こえる喧噪や、電車の音も車の音もしない。

部屋の外からノックする母親のくぐもった声も、僕を変人視する兄貴の目も、ここにはなかった。




死にたいって思ってた。

この世界から逃れたいと。

だからって・・・


だからってなんで!・・僕が戦国時代に来なくちゃならないんだ!?


「もうヤダ・・・」

視界が歪み、こめかみに痛みが走る。

一粒、涙が落ちて、そいつが驚いた顔で僕を見ている。

「なぜ泣く?」

僕に手を延ばしかけたそいつの背後から男が声を飛ばす。

「大殿!このような妖しき面、妖怪かも知れませぬ!うかつにお手を触れませぬよう申し上げます」

そいつは手を止めて、男を振り返る。

「虚けめ・・・アホを言うな。いや、寧ろ、妖怪の方が面白い。殺してしまうには勿体ないぞ」

そして、そいつは言う。

「一度飼ってみたいと思うておった。おい、名はなんじゃ?」

「大殿!」


僕の人生はどんなに頑張っても頑張ってもどうにも出来ない運命へと転がっていた。

「杏慈(アンジ)、水沢 杏慈」

「よし、杏慈、付いて来い!」

大股で歩き出すそいつの背中にボーゼンとしながら、後ろの男にせつかれて急いで起き上がり後を追った。




僕は『この世界』に突然居た。

なんの冗談かわからない。

目を開けたら、『ここ』にいた。
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