捨てられ王子と古城の吸血鬼

□捨てられ王子と古城の吸血鬼 2
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例えば。
ポンと口の中に苺を一粒入れられたとする。
それを。
舌の上に乗った苺を、そのまま噛まずにいることなど、一体誰に出来るだろう?
弾力のあるその実を歯で押し潰すと、豊潤な果肉から果汁が溢れ、甘い香りと程よい酸味が、袋を破いたように、一気に口の中を満たす。

口の中一杯に広がるその甘味が、どれ程の美味か、それは、食べた者にしかわからない。
想像は想像でしかなく、本当の味は、本当に食べる事でしか味わう事は出来ないのだから。





イケナイとわかっているのに、その手を許してしまう。

甘い誘惑に流されてしまうのは、この体がまだ未熟で、正直過ぎるせいだ。


ルーシーの指が自分の前髪を掬い上げ、それを耳に掛けるように動き、その指先が耳の裏を掠った。
その微妙なタッチに思わず目を細めてしまう。
「少し伸びましたね。前髪が目に入りませんか?」
端正な顔が目の前に迫り、ドキリとする。
「少し、入るかも・・」
「あとで理髪師に来るよう言っておきましょう」
そう言って、またオレの髪を後ろへと掻き上げた。
指通りを楽しむように何度も何度も髪を梳かれると、その心地よさに瞼が重くなってきてしまう。
「王子」
呼ばれて、一度閉じてしまった目を薄く開けると、ルーシーの指が頬から顎のラインへとやわらかく滑り落ち、顎先で止まると、心無しか上へと顎を持ち上げられる。
「王子。もし・・もう一度目を閉じたら、キスします」
そう脅されたオレはルーシーの目と見つめ合い、それから、ゆっくりと目を閉じた。
「イケナイ人だ・・」
そう掠れた声で耳元に囁かれて、ゾクリと背中が粟立つ。
ギシッとベッドが軋む音がして、ルーシーの体が自分へと傾いた。

目を閉じてキスを待つのは、すごくドキドキする。
いつ触れられるのかわからない分、時間が長く感じ、緊張で体が強ばってしまう。
待ちきれず、目を開けてしまおうか・・そう思った瞬間、体をギュッと抱き締められ、ルーシーの熱い体温に体を包まれた。
しなやかで硬く、成熟した大人の男の体。
硬い筋肉で引き締まった体は、まるで芸術作品の様に無駄が無く美しく、触れ合った肌と肌が敏感に反応してしまう。

「王子」

肌に吐息が触れそうな程近くで呼ばれ、心臓の音が大きく鳴る。
そっとルーシーが動く気配に、ゴクリと喉が鳴ってしまう。
ルーシーの唇は、前触れも無く、曝け出したオレの首筋を捕らえると、そこを強く吸った。
「アッ・・」
そして、唇を離さず、そのままスルスルと胸へと落ちていく。
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