捨てられ王子と古城の吸血鬼

□捨てられ王子と古城の吸血鬼
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昔、あるところに王子様がいました。


フワフワの金髪に、大きく丸いキラキラの銀の眼。


透けるように白い肌、その頬が紅を差したようにピンクに染まると、皆がその愛らしさに溜め息を零したそうです。


王子様はとても可愛くて、怒っても泣いても、何をしても、誰からも愛される存在でした。

その王子様が、15歳の時、王様が急な病気で亡くなりました。

国中が悲しみに包まれ、王子様も幾日も泣いて過したそうです。

ですが、いつまでも泣いている訳にもいきません。

王国には、新しい王様を立てなければいけなかったからです。

王宮で王子様が泣いている間に、会議が行われ、あれよあれよと言う間に、新しい王様が決まってしまいました。

王子様には歳の離れたお兄様が一人いて、その方が新しい王様に決まりました。

すると、兄王様は、即位すると同時に、王子様に特別な任務を与え、王宮から遠ざけてしまったのです。

兄王様は、皆から愛される王子様に妬き持ちを妬いてしまったんでしょうか・・・

命令を受けた日、王子様は畏まって、片膝を立てて頭を下げると、その美しい銀の目から涙を零しました。

きっと、悲しかったに違いありません。


「そんな訳ねえだろ」
と、王子が天使のように美しく可愛らしい顔で舌打ちしました。


「ったく、あのチキン野郎め・・っオレがまだガキだと思って、こんな国境沿いの辺鄙な村にすっ飛ばすなんて、マジでイカレてる」

「王子様。お慎み下さい。いくら聞き耳を立てる者がいなくなったとは言え、あなたは王子様なんですからね」

嗜めたのは、王子と歳も近く、従者の中でも、最も王子と長い付き合いのモモ。
王子の近待ともなると、血筋や容姿もそれなりで、王子と比べるとやや見劣りしてしまうが、それでも整っている部類だ。

「で、住むとこってあんの?」

「勿論ありますとも!由緒正しき伯爵家のお城にお世話になる事になっています。すごい歴史あるお城みたいですよ。なんと300年も前から建ってるって噂です」

「それ古いだけだろ」

「何言ってんですか〜!一度も落ちた事がないって素晴らしいお城なんですよ!ここ何十年だけでも、隣国との小競り合いが絶えないのが現実。ですが、この辺りだけは一度も侵攻された事も討ち取られた事も無いんです。言わば、不夜城ならぬ不落城です。縁起だけは抜群で、よくお参りに観光客も立ち寄るそうですよ。楽しみですね」

「どこが楽しみなんだよ?客が多いのなんて王宮だけで十分だっつーの」

「いいじゃないですか。お土産いっぱい貰えますよ」

「欲しいもんなんて、もうねえよ」
そう言って王子はフイとモモから顔を背けた。

「本当に、王子ってば、まだまだ子供なんだから」

「お前が育てたんだろ」

「そう言われると、照れますね。いいんですよ?私を兄と呼んで頂いても・・うわっ今の無し!やばい。近衛兵に聞かれたら四肢切断される不敬ですよね!」

「何興奮してんだよ・・。そもそも誰も聞いてねえよ」

「そんな事ないですよ〜!外には騎馬兵だっているんですから。あと、王子の身の回りのお世話をするために30人の精鋭を選抜して来たんです。いいですか?気に入らないからってクビにしたりするの無しですからね」

そこで王子は「たった30人かよ・・」と溜め息を吐いた。
王宮に居た時は、自分の城に200人もの使用人が仕えていた筈だ。

皆、どうしてしまったのか。
兄王がクビにしていなければいいが・・。

そんな風に思ってみても、全てが今更だ。
自分は何の抵抗も出来ずに、あっという間に馬車に乗せられて城から追い出されてしまったのだ。
しかも、跳ね橋の向こうの城門が開いた瞬間、街全体が自分を送り出すお祭り騒ぎになっていたのだ。
事前に知っていなければ、街道を埋め尽くす程の人が集まれる筈が無い。
まるで自分は戦争にでも送り出されるかの様な大騒ぎで、皆に「王子様いってらっしゃい」と涙されて見送られ、オレは兄王様に王宮から追い出された訳だ。

知らぬは自分ばかり・・。

遣り切れない気持ちをどこにもぶつける事も出来ず、馬車の中で大人しく座っている内に、馬車は丸1日走り続け、国境付近へとやって来た。
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