splash!

□splash! 第3話
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今年の夏は、一体いつから始まっていたのか。
気がつけば連続猛暑、最高気温の記録更新。
日本中がぐったりするような暑さで全ての生気が失われそうな危機感を感じながらもオレ達はどうする事も出来ず『毎日』を続けてる。
『それでも地球は回ってる』
明日もくれば、今日も終わる。

だけど、そんな日常を淡々とやり過ごすには今年の夏は少し暑すぎたんだ。
部屋の壁に掛けられたハンガーに、自分のより少し大きめのYシャツ。
その袖を取って、しばし見上げてしまう。
そうしてみると、まるでそこに彼がいるようでなんとなく胸が痛む。
そのピリピリとした痛みに、その居心地の悪さに思わず溜め息が出る。

早く返しちゃえばいいんだ。
そうすれば、こんな風に思い出したり胸が痛んだりしない筈なんだ。

「リュウト」
オレを背中からやさしく包む腕。
その少し冷たい体温に、心底ホッとしてオレは握っていたYシャツの袖を手から放した。
「さびしいんですか?私がここにいるのに」
オレの心の中が読める睡蓮は、頭一つ分上から、その優しく低い大人の声でオレを責める。
オレは睡蓮の問いに答えることが出来ずにただその腕の中で目を閉じ、小さな子どものように睡蓮に縋り付いた。
自分を強く抱き締め、支えてくれるその大きな掌。
それが、この世界にはもう一つあることにリュウトは気づいてしまった。
が、今はただ睡蓮の優しい抱擁に包まれることで、そう感じてしまう自分自身を抑えたかった。



『神送り』NO.4。
それはやはり唐突に、リュウトの足下に降って湧いて出た。
神の国という異次元へ戻りたいという願望、どんな事情かなど知る由も無いが、それでも「ちょっと待て!」とリュウトはその自称神様を制した。
もちろん、神様にリュウトの事情なんてものは何も関係無く、その日が中間テストの日だろうと朝っぱらだろうと、10分しか無い休み時間だろうとやって来る訳だ。
「無理!」
リュウトと睡蓮は人気の無さそうな社会科準備室にその神様を引っぱり込んで正面から向かい合った。
「人間如きが我にもの申すか」
口調は正に神様口調だが、見た目はかわいい虎柄のデブ猫だった。
「待って待って・・・睡蓮、コイツ本当に神様な訳?」
リュウトは、こそっと睡蓮の耳元に疑問を呟いた。
睡蓮は腕を組んでデブ猫をマジマジと見つめ、
「まだ成り立てって感じではありますが・・間違い無いですね」
と、オレの顔を見た。
「いや・・ちょ、睡蓮〜〜〜っオレ、テストだしっヤバいって!しかも猫って猫ってどうすりゃいいんだよ〜〜っ」
オレの体に触れずに心の中を察してくれた睡蓮は、デブ猫に向き直ると質問する。
「神よ。その姿で逝かれるおつもりですか?そのお姿では少し難儀になるかと・・」
「なに?猫の何が悪いというか?」
恐ろしくダミ声でデブ猫が鳴く。
「出来れば人のお姿に。人間が形を変える事は出来ませんので・・それとも・・自ら精を絞られますか(自慰するか)?」
と、ニッコリと笑う睡蓮に、デブ猫はややショックを受けた様子で、自分の耳をピンと立たせた後、何度も何度も毛繕いのように舌で体を舐め始めた。
「まだまだ(神として)浅いですね」
「睡蓮・・自分でって・・どゆこと?」
『神送り』は、リュウトの体の中と外での精の放出により神の国という異次元への門をリュウトの中に開かせる儀式。
「つまり。体内に入ればいいわけですから・・入り口を変えればいい訳です」
と、睡蓮が自分の唇を指差した。
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