戦国BL

□saikyouno otoko3
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彩瀬の言うように、『匂い』は城を取り囲んでいた。
手足に鉤爪を付けた忍が、城を囲む堀の水の中から顔を出す。
城の石垣へと手を掛けると一気に石の壁の上を駆け昇った。
その動きは、まさに異形。
人とは思えないような滑らかで禍々しい動き。
その影が石垣を昇る数は10〜20もあった。
本来、忍というのは奥の手だ。
戦の中に紛れさせ、その忍が一人で仕事をするものが常で、仕事に応じてその忍が下忍を使う事もある。
が、城攻め自体、これだけの大軍を率いていながらに、忍を中心に行う事は有り得ない。
それを、最前線で使うのにもアキナガ側の理由があった。

忍達は、数分で石垣を昇り切り壁を飛び越えると、城内へと侵入を果たした。
勿論、虚は突かれはしたが、アキヒサ側も黙ってはいない。
異変に気づいた鉄砲隊は壁から出来るだけ離れた場所で銃を構え、いつでも撃てるように火種を擦る。
瓦の上や狭間(サマと呼ばれる小さな窓)へ狙いをつける、が、暫く待っても一向に姿が現れない。
だが、ここで狙いを外すわけにはいかない。
それでも、いくら待っても姿を表さない敵に、何かがおかしいと首を捻りたくなる。
ついさっき石垣を昇って来ると伝令があったのに、なぜか標的はここに現れない。
そう。
そう思わされてしまった。
ここを既に通りすぎて、どこかへ向かってしまったんじゃないかと。
その一瞬の隙が最悪の事態を招くことになる。
「来ねえぞ・・」
誰かが呟いた。
その一言で、その場の雰囲気が、ふっと緩んだ。

瞬間。
空気を切り裂く、高い音が響いた。
「あ」
声を出せたのは急所の外れた一人だけだった。
バタバタと隊を組んでいた人間が倒れていく。
急所を外れた、と言っても心臓の真横、自分の胸の真ん中に矢が突立っていた。
自分以外の人間は、一人も撃ち損じていない。
これ程まで・・!
その忍の技の正確さに驚愕しつつ、胸に刺さった矢を掴み抜こうとしてみるが、そこまでだった。
急速に意識は遠くなり歪んだ視界の中、足をふらつかせ、そのまま前に倒れた。

壁の裏側に張り付いた忍との接近戦を避けるため、壁から離れた鉄砲隊は、逆に壁の狭間を利用され、壁の裏から矢を打ち込まれてしまった。
それも、どういう武器なのか一度に何本もの矢が飛び出す仕掛けで、たった数人の忍に20人もの部隊が一網打尽にされたのだ。
そうして、あっさりと城内へ侵入を果たした忍の軍は、再び鈎爪を使って淡々と白い城壁を上っていく。
敵の狙いは一つ。
大将の首のみ。
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