戦国BL

□saikyouno otoko
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「殿。木塚様が参りました」
襖の外から掛けられた声に、アキヒサが顔を上げた。
「通せ」

「ハッ」
無駄の無いやり取りの後、ドカドカといくつかの足音が近づいて来る。
そして不躾に襖が左右に開かれた。
「起きてるじゃねえか」
そこに現れたのは、総髪を束ねた大柄の男。
野性味に溢れた顔で、太い眉の下には細く絞られた双眸が鋭利に光っている。
昔負ったのだろう、右目の下から唇にまで渡る刀傷が男の顔をより凶暴に見せていた。
「寝てる場合では無いからな」
木塚はアキヒサの義理の母親の甥にあたる男で、アキヒサと直接の血の繋がりは無かった。
付き合いが頻繁になったのも、情勢が著しく変わるここ数年前からだ。
「大殿が出張ったってのは本当か?」
10畳程の部屋の中には台座に座るアキヒサの他に、その傍へ2人の男が座って居た。
側近の岡嶋と江田だ。
その二人の間へ割って入り、木塚も胡坐をかく。
「つい10日程前です」
答えたのはアキヒサの右腕である岡嶋だ。
「俺の腕を切り落としてこの城を手に入れに来たようだが、逆に腹を刺してやった。浴衣一枚で慌てて帰って行ったぞ」
「腹だあ!?そうか・・それで再三の一族の招集にも知らん顔だったって訳かよ」
木塚は思い当たる節があったのか思い出して、唇を震わせた。
「こいつはオモシレエ」
「そろそろ動くだろうと思っている」
「ああ。ちょいと大戦を前にしちゃあ、大殿の戦の準備はやけに早い仕込みだと思ってたぜ」
「いい予行演習が出来るって訳か」
「だが、自分の息子相手とは・・穏便じゃねえな」
「どう動く?」
木塚がズイと体を前に迫り出した。
一瞬の沈黙。
襖の外の音さえも聞こえそうな程に、部屋の中が静まった。
真っすぐにアキヒサが木塚を見つめる。
その双眸に暗い光りが宿る。
その目に見つめられて、気圧された木塚の口元が引き攣りながら上がっていく。
「籠城だ」
アキヒサの答えに、3人が一斉に息を吐いた。
「今は戦うべきではない。向こうが焦るのは自分に余裕が無いせいだろう。大方、傷が化膿して、自分こそが城から出られない状態になっているからじゃないか?」
「なら!」
木塚が言いかけた言葉を岡嶋が手で制した。
「ただの親子喧嘩です」
「一族巻き込んでか?ったく、たまったもんじゃねえぜ」
「悪いな。迷惑を掛ける。だが、本気でやり合う訳ではない。良しとしてくれ」
「ああ、ああ。・・そういう事なら後は任せとけ。親戚共には手抜きで伝えてやるよ」
木塚は話は終ったと立ち上がる。
「恩に着る」
アキヒサが座ったまま礼をすると、木塚は改まってその場に跪き、頭を垂れた。
そして、顔を上げると口元をニヤリと引き上げ、静かにその場から辞した。
木塚との付き合いはほんの数年だが、信頼の置ける男だった。
「あの親父がすぐに死ぬとは思えんが・・種は撒いた・・。あとは待つのみだ」
そう言うと、アキヒサは両手を袖の中へ入れたまま胡坐からスッと立ち上がった。







僕がこの世界へ来て、2ヶ月が経とうとしていた。


「御姫(ひー)様」

その声に振り向くと、イタズラな笑顔を浮かべた蒼井が腕組みをして壁に寄り掛かって立っている。
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