戦国BL

□futatabi
1ページ/3ページ

背中で紐が解けた。

深夜3時。
アスファルトを裸足で駆ける。
信号も車線も無視して僕は真夜中の交差点を突っ切る。
誰もいない夜の道路。
ヒタヒタと鳴る僕の痛々しい足音だけが、シンと静まり返った夜の空に吸い込まれていく。

病院で着せられた、布を2枚合わせただけの袋ような検査着が風を受けて大きくハタハタと翻った。
着の身着のまま裸足で走り、包帯を巻かれた足の裏が痛む。
頭を振りながら走る体に、冷たい風が突き刺さった。
ここ数年、こんなに走った事なんか無かった。
いや、走ること自体無かっただろう。
呼吸は荒れ、肺の中まで乾く程カラカラになって、僕は苦しくて天を仰いだ。
アスファルトに足が着地する度に受ける荷重は、足の裏からハンマーで叩かれているみたいで、背骨から脳天がズシン、ズシンと圧迫される。
上下に頭を揺さぶられ、強烈な頭痛に目が眩んだ。
体力の限界。
元々強くない体だ。
座り込んだらもう二度と立ち上がれなくなりそうで、僕は重い足をやっとで前に出した。
闇夜に浮かぶ山影。
帰るヒントはあそこにある。
そう信じて、僕は走り続けた。


会いたいんだ。
もう一度、あの二人に会いたいんだ。
あの世界に戻るんだ。
絶対に戻るんだ・・!


「アキヒサっ・・・鷹峰・・待って・・待ってよ・・置いてかないでっ」


わかってる。
もし、本当にあの世界が戦国時代だとしたら・・・
僕がいるこの現代から見たら、何百年も昔の事なんだ。
もしそうだとしたら。
いや、そうではない訳がない。
でも。
でも、考えたくなかった。
今の時代があるという事は、アキヒサも鷹峰もみんな、誰も彼もあの時代の人達は、今。
何百年も前に、死んでしまったという事になる。


「やだ・・・やだ・・っ帰る!帰るから!」


涙が溢れてくる。
泣いてる場合なんかじゃない。
足が痛いなんて言ってる場合じゃない。


どうしたら戻れる!?
どうして僕はここへ戻った!?


わからない。
わからない!
どうしたらいいのかわからない!


それでも、一つだけ、たった一つだけ手掛かりはある。
あの山だ。
向こうの世界で目が覚めた時、僕は山の中に居た。
そして、ここに戻った時も。
僕は山の中に倒れていたと聞いた。


だったら、そこに行けば戻れるかも知れない。
あそこに行けばなにかがあるのかも知れない。


僕は唯一の手掛かりの場所へ、片足を引きずりながら走り続けた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ