戦国BL

□tadasobade
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 朝日の眩しさに、眼を凝らす。
広い畳部屋、その障子が一間分開かれ、今まで隣にいたはずの人が廊下の方を向いて座っていた。

彼の名前はたぶんアキヒサ様だ。
名字の部分がなんか長くってたまたま一回聞いたくらいじゃよくわからなかった。
でも最後の部分だけは『アキヒサ』とハッキリと聞こえた。
薄い紺の浴衣の前をはだけさせ、茶色の帯を腰に巻いている。
髪はすでに整えられていて、昨夜の乱れなどどこにも見あたらなかった。
ただストイックに。
その身に強さだけを纏う彼がそこにいた。


ゆっくり起き上がった僕の気配に気づいたのか、アキヒサがこっちを振り返って笑う。
「寝坊助め」
僕の頭をなで回すアキヒサの笑顔に思わず顔が熱くなる。
身体の関係があるだけで、この世界で僕の『身分』は家来。
それを『寵愛を受ける』と言うみたいだけど、だからって恋愛とは違う。
ただ、顔を気に入られて拾われただけ。

これが500年程前の日本の世界。
強い者が弱い者を従わせる。
肩がぶつかっただけで、殺された。
女子供も容赦なかった。
必要とあらば、実の父も母も殺す。
それが戦国で生き抜くための運命だった。

この行軍の途中でも、いくつも村が兵士に襲われナケナシの食料を奪われていた。
女子供は歩兵の餌食になる。
眼を覆いたくなる光景がそこかしこで当たり前のように繰り広げられていた。

それと僕も一緒だ。
アキヒサが行軍の途中僕を拾い、女の代わりをさせるために連れて行く。
簡潔に言うなら僕は拉致・軟禁・強姦された、というわけだ。
この状況で、唯一食うに困らないことだけが最大の利点だった。
そんなこと今まで思ったこともなかった。
毎日部屋のドアの前にご飯が運ばれて、それをただ食べていた。
旨いとかまずいとかそんなことはどうでも良かった。
ただ、食べ物を食べないと動けなくなるから食べた。
毎日、パソコンとゲーム。
眠気が来なければ24時間でも30時間でもパソコンの前にいた。
食べられることに感謝などしたことはなかった。


だが、もし、アキヒサに拾われてなかったら自分は餓死していたかもしれない。
それくらい、この世界の弱者と強者の 違いははっきりしていた。
食べ物、着るもの、話す言葉さえ区別されている。
この世界では全ての命は平等ではないのだ。

そして、アキヒサは当然のように『武士』で、絶対に逆らえない、抗えない何かをもっていた。
そのアキヒサに抱かれる。
それは回避する事の出来ない宿命だった。
与えられる快楽に戸惑いはあるけれど、行く当てもない自分には、アキヒサに強引に連れ回されているこの現状も死にたい程の苦ではなかった。

死にたい程の・・・。
死にたかったはずなのに、なぜか必死に自分が助かる道を探している。
いや、殺されることを恐れている。
死を目の当たりにして、恐怖心が勝ったからだ。

そう考えて、アキヒサの持つ何か言いがたい雰囲気に思い当たった。
アキヒサは常に強者でありながら、いつでも死と向き合っている。
その時がいつ来てもいいと覚悟しているような、そんな空気を漂わせていた。
だから、怖いのか。
だからアキヒサを前にして逃げ出したくなるのか。


立ち上がって廊下に出ようとする肩をアキヒサに引き止められる。
「おい、そのカッコで歩き回るつもりか?」
手早く、着物の合わせと帯の弛みを締め直される。
「俺に着付けさせるとは・・いい身分だな」
そのアキヒサの表情があまりに優しくて、眼を伏せた。
「ありがとうございます」
あわてて礼をして部屋を出た。


心臓がバクバク言う。


抱かれているから?
知らない。
心臓の音が耳の中で大きく響く。
こんな感情は、知らない。
セックスするって、相手を好きになるってこと?
知らない。

僕はまだ誰も好きになんて、なったことなかったんだ。
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