捨てられ王子と古城の吸血鬼

□捨てられ王子と古城の吸血鬼
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「どういう・・意味・・」
戸惑うモモに、王子はルーシーに体の向きを変え、その姿をマジマジと見つめた。

ルーシーは、こんな田舎の古城の城主にしては、若く美しい青年だ。
こんな将来有望な人間が、田舎で燻っている理由は何か?
または、この地に留まり続けなければいけない理由とは?


「モモ。王族に言い伝わる伝説を聞いたことがあるか?」
「伝説・・?」
「そうだ。オレはひいばあさんに子供の頃、聞かされた事がある。この国にはな・・ある伝説があるんだ」
そう言って、王子が玄関の扉へと近づく。
モモもそれに倣って、ルーシーに視線を据えたまま、ゆっくりと扉へと後ずさった。
「バカバカしいと思ってたけど・・まさか、マジだったなんてな・・」
そう笑う王子の眼が血走っている。
「伝説ってなんですか!?」
「ここを出れたら、話してやる」
「お止め下さい。その扉を開けてはいけません。私の事ならどうしても構いませんが、その扉だけは開けてはいけません・・!」
そうルーシーが階段を降りきり、手を伸ばす。
王子は勢いよく、モモと一緒に扉に体当たりした。
「王子、やめて下さい!」
ルーシーが王子の肩を掴んだ。
それを振り切り、両手でルーシーの体を突き飛ばす。
ルーシーは後ろへ突き飛ばされてよろめき、床の上に横向きに倒れた。
「モモ!」
掛け声と共に、二人が思い切り肩から扉に体当たりする。が、ドアは重く軋むだけで全く開く様子が無い。
それでも、繰り返し、必死に続けていると、ドアの隙間から光りが差すのがチラリと見えた。

「モモ!頑張れ!!」
「ハイ!!」
二人で必死に扉に体を打ち付けていると、次第に扉が歪み、押し開かれていく。
「ダメだ!!やめろ!!開けたら大変な事になる!!」
ルーシーが立ち上がり、叫んだ瞬間だった。
扉の外が激しく光り、押していた筈のドアが外側から勢い良く開いた。
「な、なに・・!?」
吹き飛ばされ、床の上を転がった王子の前にルーシーが跪き、その身を盾に、何者かから王子を守った。
「王子!!」
モモの呼び掛けに、王子が瞑っていた目を開くと自分のすぐ目の前でルーシーと誰かが睨み合っていた。
「道理で旨そうな匂いがした訳だ・・おい、ルーシー、その御馳走ごと、この城をオレに返せ!」
今にもルーシーに噛み付きそうな程顔を近づけた白いスーツ姿の男は、大きく波打つ長い金髪に、禍々しい赤い眼をした美しい男だった。
多分、ルーシーより年上だろう。
「オルツガルナ様・・どうぞ、お許し下さい。このルーシーで良ければ、あなた様の欲望にお応えします。貴方が城に戻りたいというなら、そうなさって下さい。私は貴方の従者なんですから」
「随分、聞き分けがいいな。オレを城から追い出した時とは偉い違いだな」
「あれは、貴方が暴れるから、仕方なくそうしたまで・・で」
「そうかよ。それにしちゃ随分長いこと閉め出されてた気がするけどな。で、この旨そうなのは誰だ?」
ギロリとオルツガルナに睨まれて、王子は顔を恐怖に引き攣らせた。
猛獣の眼のように、オルツガルナの瞳の中心にくっきりと赤い線が縦に走っている。
「この方は、貴方様の・・ひ、ひ、ひ・・ひ孫くらいに当たる方で、この国の王子様です。どうか貴方と同じ血に免じて、王子のことはご容赦下さい」

ひ、ひ、ひ!?ひ!?

と、ルーシー以外の3人は同じ様に頭の中で繰り返したに違いない。

あまりの突飛な話に、モモはこの事態についていけない。
「ちょっと、待って・・何この話・・っ」
そう呟いた瞬間、オルツガルナの眼がモモを捉えた。
「なんだよ。コイツもなかなか血統が良さそうじゃねえか。旨そうな匂いがする。この匂いはバージンだな」
「男にバージンは当てはまらないと思いますけど・・」
そうルーシーが反発すると、オルツガルナは眼を吊り上げた。
「お前はいつもいつもそれだ。定義なんて、どうでもいいんだよ。要は血が旨いかどうかの話だ。王子は見逃してやるから、こいつを寄越せ」
「ダメです。そんなことをしたら、また私と貴方の時の二の舞になってしまいますよ」
言いながら、ルーシーが立ち上がり、後ろに庇っていた王子の腕を取って体を引き起こした。
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