太陽と魔女。
□キスと嫉妬とプライド。
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神村家。
生き残りの末の娘。
彼女は一目置かれた兵士、策士となった。
「Ms.神村、貴方は何故いつも何処でも…」
「神村、来い」
「…ぁ…」
ドラコ・マルフォイの下僕だと聞いた。
彼女はいつも後ろを追っていた。地味な娘だった、秀でてはいない実に何も無い。
だが、一年前半の自分がつけた成績はトップだった。
ただ、態度に難あり。と書かれていた。
「待ちなさいMr.マルフォイ。貴方とMs.神村の関係は何なのですか」
「千代と僕?」
ちらりとこちらを見るドラコ、千代は隠れるようにドラコの後ろに立つ。
そっと彼女に一言二言言うと、千代が前に出る。
「幼なじみですよ、マクゴナガル先生」
「そ、そう」
戸惑うマクゴナガルに千代は鬱々しい表情をする。あぁ記憶が正しければ彼女の笑顔はドラコのものだ。あの雪の日も。泣き縋る彼女はドラコを頼っていた。
「千代、行くぞ」
その声に嬉しそうにする。
下僕だと言うのに、手を引かれて行く。
彼女が微笑むと何処か懐かしく感じる。
石鹸の香りが鼻をかすめる。
「まったくお前は、無理し過ぎだ。今年に入ってからは」
「そうかなぁ?睡眠時間が足りないのは確かに…むぅ…ん…眠い」
「次は占い学だ、サボるぞ」
「はぁい」
年相応に微笑む。
使われていない階段に座り千代はドラコによっ掛かっていた。
「ドラコ…ドラコはちゃんと幸せ?」
「当たり前だ、優秀な守護神が居るからな」
「ふふ、もっと褒めてっ」
「調子にのるな」
くんくんと肩の匂いを嗅ぎ眉間を寄せる。
「パンジー。好きなの?香水移ってる」
「移り香なんてよく解るな」
「ドラコに一番くっついてるもん解らない訳ないよ」
「アイツはマルフォイが好きなだけだ、僕は千代が傍に居るのが幸せだ」
「わたしも…ドラコが幸せなら幸せよ」
辛そうに笑う千代はふらふらとし眠りにつく。
泣きじゃくる千代を見て、額にキスをして抱きしめるドラコ。
まるで下僕と主という繋がりが恋人や夫婦の絆のように思えた。
"彼女"が何をしているか。
そんなのは見ていたら解る。
誰にも気づかれず。
ハリー・ポッターを護りドラコを護る。
"あの人"が存在を知れば欲しがるに決まっていた。
彼女は、自分とドラコ、ダンブルドアの他には意識されないのだから。
それはあまりに特殊で、便利に違いなかった。
「ど、らこ…っ…ドラコっ…」
彼女の記憶は醜かった。
同時に理解した。
ぱちりと目を覚ました彼女はドラコに待っている様にいい、すたすたと、傍に来て酷く憤慨した表情を浮かべて胸倉を掴む。
「見たのですね…ひどい先生だ」
「お前は誰だ」
「僕は僕ですよ。エミリオ・マルフォイ。それ以外ありませんよ。」
「何故余計な事をした。神にでもなったつもりか」
「僕は違えられない。ドラコが幸せになる為なら憂いを掃うのは僕がすると誓った日から、違えられない。だから、貴方にとって余計な事でも僕には重要だ。」
中性的な声が響く。
「結局はドラコの為と言って私利私欲の為だろう」
「貴方に言われる筋合いは無い、ダンブルドアの信用は貴方と僕では並列ですよ、僕のが使い勝手は良い。貴方も理解なさって、いゃ、贖罪を失ったからといって僕に八つ当たりしないで欲しいですね」
彼女が女だと忘れそうになる。胸倉を掴むと、壁に押し付け持ち上げる。
下唇を噛む彼女を見て、イラつく。
解った口を、知らないフリを、解らないフリを理解をされないと理解して、流れに身を任せながらも地に足をつける彼女が。
「っく、ん…はぁっ、やめ」
ドラコとキスをしているのを見た時から堪えていた感情。
「お望みだったのでしょう?」
座り込む彼女は目を見開き困ったように笑う。
胸に指を当て言う。
「僕は貴方の監視と余計な事に首を突っ込まないようにフォローを言われただけです……貴方が望むなら…仕事ですから……どうぞ、何なりと」
壊れた人形のように微笑む。
腕を引っ張り立たせると、指の感触に袖から腕を引っ張れば雑に巻かれている包帯。
「包帯が、珍しいですか?」
袖に隠すと睨む。
「それとも、貴方は言えますか?"女が傷を増やすな"って、僕を憎んでるならちゃんと憎む可きだ貴方は…優し過ぎます」
忌ま忌ましげに吐き捨てると千代は自嘲するように笑みを浮かべた。
「もう一度聞く、何故引き受けた」
「私のドラコが、苦しまないように悲しまないように…幸せで居られるように」
迷いも無く答える。決められた当然の解答のように。それしか無いように口にする。
「ドラコが拒んだらお前は生きる価値が無いと言ってるように聞こえるが、結局は頼っているのはお前だろう」
「ドラコが拒めば私には死しかありませんよ、ドラコに生かしてもらっていますから、私は」
涙を流す千代。
そっと手を伸ばし指で涙を拭う。
「千代」
ぴくりと眉を跳ね、微笑む。
「やっと……呼んでくれましたね、スネイプ教授」
思い返せばいつから彼女にそう呼ばれていたか。
小さなお姫様が、話しかけてくる。
『スネイプ教授、ごきげんよう』
照れ臭そうににっこり愛らしく笑いながら。