Hermit短編

□6月にテレビに落とされなかった夢主の話
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十二月二十日(火)
放課後 ジュネスフードコート

屋上フードコートは、今日も真っ白な霧に包まれている。

この町をずっと悩ませてきた霧は、先月末から一段と酷くなり、今月に入ってついに一日中晴れなくなった。日増しに濃くなってもいるようで、屋外ではもう間近にいる人間の表情さえ分からない。

(確かにこれは、心にクるわ……)

この霧が毒だとか、世界の終わりが来るとか、トンデモなデマとしか思われなかった噂が、最近は真顔で囁かれるようになった。寒さも相まって心や体を壊す人が増え、比較的冷静さを保っている人たちも、みな不安に顔を曇らせている。

(俺だって、何も知らなきゃ同じだった。きっと)

俺と、俺の仲間たちだけが、この霧がただの霧でないことを知っている。そして、「世界の終わり」が妄想でもなんでもなく、本当に間近に迫っているってことも。

それでも落ち着いていられるのは、俺たちならそれを食い止められるってこともまた、知っているからだ。霧の出どころはテレビの中の異世界。そこにアクセスできるのは俺たちだけ。戦えるのも俺たちだけ。何かできるとしたら俺たちをおいて他にない。

だからこそ、今は少し辛抱しなくちゃならない。絶対にしくじらないために。入念な準備のために。わずかでも可能性を高めるために。どれだけ町のみんながしんどい思いをしていようと、焦りは禁物だ。

リーダーである相棒からのGOサインは、まだ出ない。

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