Hermit短編

□また一年
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(ふたりの家、朝のリビング)

「おはよー」
「おー、おはよ」
「今年もお誕生日おめでとうございます」
「ん、サンキュ。花の二十代も、ついにラストイヤーになっちまったなー」
「楽しんで行こ、今年も」
「そだな。また一年、よろしくお願いしまっす」
「はい、こちらこそ。喜んで」

(かしこまった?やりとりに吹き出して、抱き合って、ひとしきりいちゃつくふたり)

「そうだ! はい、これ、お誕生日プレゼント」
「お、悪いなあ、毎年」
「なに言ってるの、悪いわけないでしょ」
「中身なに? このサイズってことはもしかして……」
「それは開けてのお楽しみ」
「マジか。じゃあ着替えてメシ食ってからだな」
「折り目正しいね」
「そろそろ、オトナってやつを意識してかないとって思ってさ」
「なるほど?」
「だって、こうやっておまえに誕生日祝ってもらうのも、もう十二回目だぜ」
「えっ、十一じゃなかった?」
「うんにゃ、高三の時からだから十二。あの頃、俺たちは、まだぴっちぴちの十八歳でしたね……」

(指折り数える杏子)

「わ、ほんとだ。干支ひと回りしてる!」
「な、すげーよな。でもなんかあっという間だったし、社会人としての経験はそれなりに積んだけど、根本的なトコはあの頃からなんも変わってないっつーか……」
「えー、そんなことないと思うけど……。でも、うーん、私もそう思うかも、自分のことは」
「だろ? だからさ、単なるカッコつけでもいいから、ちょっとはオトナになんねーとと思ってんの」
「ふふ。変わらないね」
「え、ちょ、変わる話をしてんですけど!?」
「や、そうなんだけど、そうやっていつも『この先の自分』に目を向けてるところ、昔からだなって」
「あー」
「陽介のそういうところ、好き」
「マジで! ってか、おまえはおまえで、そういうことストレートに言うようになったよなあ」
「私の『この先』も日々更新中です」
「今はどこ目指してんの?」
「それはヒミツ」

(再び笑い合って、今度は静かにキスするふたり。窓の外は雨)

「……しっかし、毎度ながら雨だな」
「毎度ってこともない。降らない年もあったよ」
「でもスッキリ晴れたのはあれだよな、最初の年だけ」
「そうだね」
「六月ってのはそれがなー。ジメジメあちーし、雨ばっかりだし、祝日はねえし……」
「だからこそ、陽介の誕生日があって嬉しいけどね、私は」
「お、そう来ますか」
「うん。今は、一年で一番、大事で、楽しみで、待ち遠しい月」
「照れるっつの」
「ふふ。あらためて、二十九歳おめでとう、陽介」
「おう、ありがとさん! こっちもあらためて、また一年よろしくな、杏子!」



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