往復書簡

□往復書簡
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月森孝介さま

ねえ月森くん、私たちって、とっても似た者同士みたい。
だってね、ここに手紙があるの。私が書いた手紙。今日、一日中持ち歩いた手紙。
直接渡すにはどう考えたって勇気が足りないってわかったから、明日またおかずを詰めて返すお弁当箱にどうにかして忍ばせられないかって考えてた手紙。

それなのに、お弁当箱を洗おうと包みを開けたら、私のじゃない手紙がもう乗ってるんだもん。びっくりしちゃった。

ねえ、いったいどうやったの?
お弁当を交換したあと、月森くんは一度もこっちのお弁当箱に触ってないよね。いただきますして包みをほどいたのも、ごちそうさまして包み直したのも私。それなのにどうして、月森くんの手紙が包みの中に入ってるの?
「いま見せられる魔法はこれだけ」なんて言ってコインの手品を見せてくれたけど、右手でコインを消しながら、左手でほんとの魔法をかけていたってこと?

って、いま大事なのはそこじゃないね。
お手紙、読みました。

あのね、月森くん。
私の「気になる人」はあなたです。
だから、すごく嬉しかった。ありがとう、月森くん。私も、あなたが好きです。

んー。昨日書こうとしたときにはなかなか書けなかったひと言が、簡単に書けちゃった。「私も」って始められるの、とっても素敵だね。
ほんとうにありがとう、月森くん。

だけどね、めでたしめでたしの前に、ひとつ話しておきたいことがあるんだ。

あのね、私、月森くんが思うような子じゃないよ。
光だなんて、とんでもない。
だって、月森くんにラブレターを書こうと思ったのだって、腹が立ったからなんだよ。

あ、もちろん月森くんにじゃなくて、学校の人たちにね。
男も女も先生も生徒も関係なく、急に「月森くん、月森くん」って言い出した人たち、みんな。

おかしいよね、私だってほんのちょっとのご縁で月森くんと繋がっただけで、それがなかったらみんなと同じだったはずなのに。そんなの全部棚に上げて、去年の月森くんのこと何も知らないくせに!、一昨年の月森くんのこと少しも気にかけなかったくせに!って、イライライライラして、それでね、わかったの。

私、月森くんに私だけを見ていて欲しいんだ、って。
去年、便せんを広げて机に向かう時、きっと私のことだけ考えてくれてたみたいに、今年も、その先も、ずっと、私のことだけを考える時間をなくさないでいて欲しいんだ、って。

とんでもなくわがままなのは私の方だよ、月森くん。
月森くんをひとりじめしたいの。誰にも取られたくない。
こんな意地悪な気持ちになったの初めて。
まるで自分の中にもう一人、別の自分がいるみたい。

こんなのやだな、月森くんのことをただ好きなだけの自分で告白したかったなって思うけど、でも、そんな私も私なんだよね。
それで、そのもう一人の私こそが、月森くんに向かって一歩踏み出す力をくれた。
ちょっとまだ割り切りきれてなかったみたいで、手紙渡せなくて、月森くんに先越されちゃったけど。

明日は、勇気を出して、手渡しするね、この手紙。
頑張るから、だから…

光じゃない、影の私も、私だって思ってくれますか。
好きだって、言ってくれますか。

こうやって月森くんに委ねようとする私と、でもNOの返事は絶対イヤ!って駄々こねてる私が、ふたり一緒に心の中にいます。
恋する気持ちは複雑…って、何度も本で読んで、わかったつもりになってたこと、身をもって体験中です。
教えてくれてありがとう、月森くん。大好き。

私、喜んで月森くんの「帰る場所」になる。
だから、どうか月森くんの「時間」を私に下さい。

水曜日の朝も、またポストのところで待っています。
きっと来てくれるって、信じてる。

あなたの

宮本美織
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