往復書簡

□往復書簡
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月森孝介さま

さあ月森くん、とうとうこれが稲羽に送る最後の手紙です。
なるべくギリギリに届けたくて、時間指定の速達便を使ってみています。
春分の日、朝10時前。届いていますか?

書いている今はというと、3月18日の夜です。
月森くんは昨日が終業式だったんだよね。荷造りとか、している頃かな。
この手紙、きっと手荷物をひとつ増やすことになっちゃうけど、ごめんね。でも、小さな封筒ひとつなので許して下さい。

そうだ、この間はホワイトデーのクッキーをありがとう。とっても美味しかったです。
家庭用のオーブンレンジであんなに綺麗にムラなく焼き上がるなんて、いったいどんなマジック…?
私が送ったチョコも、月森くんほめてくれたけど、これは新年度のお弁当、気を抜けないなあ…と思いながら、美味しく頂きました。

こっちの終業式は23日の金曜日です。
そして、学年末試験、合唱コン、卒業式、球技大会と、三学期のめぼしい行事も全て終わった今、私は、委員のみんなと来年度の図書オリエンテーションの準備を進めています。
例年なら新年度になってからで間に合うんだけど、今年はシステム変更があるからそうもいかなくて、早めのスタートです。

だから、そんなこと思うのもまだ早いんだけど、蔵書のチェックをしているとどうしても、「月森くんの診察券が見つかってから一年か…」って考えてしまいます。
あの出来事がなかったら、私はこの一年をどう過ごしていたかな、今ここにこうしていたかな、とか。

診察券を見つけたのは先輩だったので、私は、それが誰のなんていう本に挟まれていたのかを知りません。
それでも、今年の私と月森くんの「ご縁」を繋いでくれた本が確かにここにあるんだと、そう思うだけで嬉しくなります。
今チェックしているこの本がその一冊だったのかもしれないって、ついしげしげ眺めてしまったりして、後輩に「手が止まってます」って叱られたり…。

来月にはこの場所に月森くんにも来てもらうことができるんだと思うと、不思議な気持ちです。
カウンターに座って、一年生の時と同じ席にいる月森くんを見たいな。マボロシじゃない、本物の。

でもなー。
その前に、ちゃんと帰ってきてね、月森くん。
もちろん信じてるよ。けど、どうも気が抜けないというか…。
「実は、またまた大変な目に遭ってました!」とか言われそうな、そんな気がして仕方がないです。

超常現象めいたことはさすがにもうないだろうけど、お正月の時みたいに寝込んだりとか、スキーの時みたいに遭難しかけたりとか…。
んんー、ありそう。
こっちに帰ってくるまでが遠足なんだからね、月森くん。遠足じゃないけど!

ここまで書いて、ひと息入れて、先に封筒の用意をしてました。
「堂島様方」もすっかり書き慣れたけど、この宛先に手紙を書くことは、もうないんだね。
少し寂しい気もするけど、それよりもずっと、ついに会えることを楽しみに思ってます。

それじゃあ道中くれぐれもお気をつけて。
始業式の日、朝8時、駅前のポストのところで。
待ってます。

宮本美織
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