往復書簡

□往復書簡
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宮本 美織 様

テストお疲れ様、宮本さん。
終わったーって羽を伸ばしているところに、この手紙が届いているといいなと思います。

本当はこちらのテストが終わった時点で送るつもりだったんだ。リレーになってるって言ってくれたから、バトンを渡すような気持ちで、「頑張って」っていうエールと一緒に。
でも、書けなかった。ものすごく、いろんなことがあって。

テスト明けの長い長い午後と、そこから今日に至るまでに起きたこと、知ったこと、分かったこと。
ああ、何から説明したらいいんだろう。
いよいよ手紙を書こうと思って昨日から考えているんだけど、どうも上手くまとまらないんだ。

けど、あまり時間をかけるわけにもいかなくて、だから、とにかく書いてみようと思います。
多少ヤブカラボウでも宮本さんなら許してくれる…って、思いっきり甘えているのは俺の方だね。


まず最初に、霧のことを話そうと思います。
有害物質の可能性があるとか、政府が調査に乗り出したとか、おそらくそちらでもニュースになって、心配させていると思うので。
確かに、町はこれまでにないほど深い霧に沈んでいます。何日も覆い尽くされて、晴れる気配もない。でも、心配はいらないです。
もちろん、まるっきり問題がないというわけではないんだけど、少なくとも報道にあるような有害性はないはずです。それに不明とされている発生原因も、俺たちは既に掴んでる。これについてはまたあとで書きます。

次に、事件のこと。
事実は小説よりも奇なり。
なんて、真剣味に欠ける切り出し方をしてしまったけれど、事件の「真犯人」が分かりました。
そう。夏の少年でも、菜々子の誘拐犯でもない、第三の人物が黒幕だったんです。
これはまだ、世間には知られていません。知っているのは俺と、仲間と、叔父と、それから、宮本さんだけ。
事件の本当の犯人は、叔父の相棒の刑事でした。

なぜ、そんなことをしたのか。

今日、本人の言い分を聞いてきたけど、到底納得できるものじゃなかったです。
その上、ことが露見すると同時にテレビの中の世界へと逃げ去っていた彼は、あちらの世界と強く結びついて人を超えた力を身につけ、驚くような話をしてきました。
曰く、「この町は今年の暮れ近く、霧の中に消える」。

テレビの中の世界に充満している特殊な霧が、現実の町も浸食し始めていることには俺たちも気が付いていました。(これが町を覆う霧の出どころです)
どうやら、それがさらに進行し、こちらの世界があちらの世界に飲み込まれる、ということを言っているようです。
もしそんなことになれば、町にいる人たちはみんなシャドウ(向こうの世界に生きるもの。自我を持たず、たださまようだけの「人の心の影」)になってしまうだろうと、クマが言います。

それは、なんとしても阻止しなければならない。
その方策を探るために、そして何より罪を償わせるために、まずは彼をあちらから連れ戻さなければならない。確実に。抜かりなく。全力で。

そのために、明日からできる限りの準備をしようと、仲間たちと確かめ合いました。
なので、ごめんなさい。しばらく手紙は休ませて下さい。全てを終わらせて、必ずまた、俺から送ります。

そうやって、いい報告をして、当たり前に年を越して、来年には必ずそちらに帰ります。
繋がる手段がどれだけあろうと、俺はとにかく宮本さんに会いたい。会って話したいんだと、この間の手紙を読んで、強く思ったので。

それに、聞いて欲しいことが、本当に、どんどんどんどん増えてるんだ。まるで転がる雪玉みたいに。
そもそもこの文通だって「一年の間に話したいことが山ほどたまってしまいそうだから」って言って申し込んだのにね。とても追いつかない。

それだけの経験と思い出をくれたこの町と、人を、俺は守りたい。
そして、そんな俺を遠くからずっと見守ってくれた人との約束も、絶対に守りたい。

だから、帰るよ。
菜々子はきっと大丈夫。なんたって彼女は、俺に奇跡を見せてくれた、強い強い女の子だから。
その話も来年する。俺、泣く気がするけど、それでも。


ここまで何度も読み返しました。
相変わらず雲を掴むような、具体性のない、非現実的な話で、ごめん。
でも宮本さんは信じてくれる。それを俺は知っています。

それじゃあ、また。
いざ対決という時には、無事カエルのお守りを内ポケットに入れていきます。
必ず、やりとげてみせるよ。

月森孝介

追伸
そんなことには決してさせないつもりだけど、もしこの町が霧にのまれて、それがさらに広がって、宮本さんのところにまで迫るようなことがあったら、その時は栞メガネを霧にかざしてみて下さい。
そのレンズには、あちらの霧を見通す力があります。万が一の時、何かの役に立つかも知れない。
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