往復書簡

□往復書簡
41ページ/53ページ

月森孝介さま

「おやすみ」の手紙へのお返事は「おはよう」がいいのかなって思ったけど、この手紙が届いて月森くんがそれを見るのは朝じゃないだろうなって思ったから、別のごあいさつをしようと思います。
おかえり、月森くん。

すぐ送るっていう約束通りの手紙をありがとう。だから私もすぐ返事を書いています。というか、私も手紙が書きたくてウズウズしてたので、待ち構えてた感じ。シュッ、シュッって。(素振りの音です)

この間はありがとう。って、なんかお互いに「ありがとう」で、ありがとう合戦になってるけど、でも、ありがとう。
ストーカーまがいの方法で番号調べて電話して驚かせたのに、嫌な顔(声?)ひとつせず聞いてくれて。

こんなことしていいのかな、困らせるかな、ていうか、もし月森くんじゃない人が出たらどうしよう――!!!
って、すごくドキドキしながらかけて、いざ繋がってからもドキドキして、電話を切ってもドキドキで…っていうのを思い出して、今もまたドキドキしてます。笑っちゃう。
電話したこと、私のひとりよがりとか自己満足で終わるんじゃなく、月森くんにも喜んでもらえたみたいで安心しました。勇気出してかけてよかった。

しかもいっぱい誉められちゃった!
でもなにもすごいことないよ。電話でも言った通り、月森くんが信じてくれてるように、私も信じてるだけ。

来年、直接会ってもっとたくさんの話が聞けるのを楽しみにしてます。長い話がさらに長〜くなるくらい、根掘り葉掘り聞く気満々です。
でもどうかなー。手紙の距離をなくして、目の前にいる人に「自分は超能力者で、異世界を知っている」って言われたら、とたんに「証拠は?」とか思っちゃいそう。離れている今はそんなこと思わないのにね。人の心って不思議。

不思議と言えば、月森くんの声。
たくさん話すのは初めてだったのに、まるで前から知ってたみたいに自然に耳に入ってきて、なんでだろうって思ってたんだけど、手紙が来てわかりました。
いつも月森くんからの手紙を読むときに頭の中でイメージしてた声、ほとんどそのままだったの。
文章には人柄が出るって言うけど、声色もにじみ出るものなのかもなあ、なんて思っています。

電話のあと、テレビの画面に触ってみたよ。
それから、やっと今日雨になったので、零時になったらまたいつかのようにマヨナカテレビを試してみようと思ってます。
触った画面はがちがちに固かったし、消えてるテレビはきっとウンともスンとも言わないだろうけど、やってみたくて。

あ、あと、もうひとつやってみたいこと。これは明日実行予定。
夕食当番で「肉丼」を作ります!
こんな感じかなっていう想像で作るだけだけど、稲羽に行った気持ちになれるかなーって。でもスペシャルなボリュームにはしないよ。常識的なサイズで作ります。明日の予報は晴れだし。

菜々子ちゃんと叔父さんが、早く元気になりますように。
では、抜き足さし足で居間に下りてみようと思います。

宮本美織

追伸
やっぱりテレビは黒々と、ただ私の姿を映すだけでした。栞メガネで見ても同じで、手も入らなかった。
これに飲み込まれるってどんな感じなんだろうって想像したら、ぶるっとしちゃった。月森くんはとても怖いことをしてるんだね。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ