往復書簡

□往復書簡
40ページ/53ページ

宮本 美織 様

約束した通り、ちゃんと夕飯を食べてからこれを書いています。
夜もしっかり温かくして寝たよ…と言いたいところだけど、半分嘘で、実はどうやって布団に入ったのか記憶がないです。
たぶんビックリしすぎたせいだと思う。はっと目覚めたら朝で、きちんと布団の中にいました。

昨日は電話をありがとう。
本当に驚いたけど、嬉しかった。

信じられないことばかり起きている今年だけど、どんな超常現象よりも、昨日宮本さんの声を聞いた時が一番「ありえない」って気持ちになったと思う。
完全に非現実的なことより、現実にあってもおかしくないけど、起こるとは思ってもいないことが起こった時の方が、人は度肝を抜かれるのかも知れない。

今日は放課後、叔父の見舞いに行ってきました。
文通相手が104を使って番号を探し当てて電話してきてくれたと話したら、体の痛みも構わず愉快そうに笑っていました。
同席していた叔父の若い相棒を掴まえて、その人より優秀なんじゃないか、なんて言って。

叔父にも、その若い刑事さんにも、学校のみんなにも、今日は顔色がいいって、かなりホッとした目で見られました。知らない間にずいぶん心配をかけてたみたいです。
なんて、意外なことみたいに言ってるけど、本当は自分でも自覚ある。今週はずっと上の空で、自分がどこを向いているのか分からなくて、そんな状態のまま、あんな手紙も書いた。

昨日も言ったけど、ありがとう、宮本さん。
俺のこと「信じる」って言ってくれて。

俺はたぶん、それが欲しかったんだ。
叔父に対して誠心誠意打ち明けたけれど届かなかった告白を、誰かに聞いて欲しかった。受け止めて欲しかった。どれだけ荒唐無稽でも分かって欲しかった。誰かが信じてくれていれば、何かが違ったんじゃないかって、そんな「もしも」に救われたかったんだと思う。

だから、ありがとう。本当に。


宮本さんが言ってくれたこと、ずっと考えてます。

・自分が手紙に書いていることだって証拠がないのは同じ
・それを俺が信じているように、自分も信じているだけ
・だから特別なことじゃない

そう言われれば、確かにそうかも、って思う。でもやっぱり納得できない気もする。違いは「現実にありそうな話か、そうじゃないかってだけ」って言ってたけど、そこのハードルは普通結構高いのでは…?
それを軽々と越えていく宮本さんのことを、ただひたすらに「すごい」って思っています。

手紙でしかお互いを知らないこの距離が良かったんじゃないかってことについては、俺もそう思います。
でもそれは「今」だからの話で、いつか…というか来年、もっと近くで話せる日のことを楽しみにしています。
その時には、この間の手紙に書いたよりずっとたくさんの、便せんを何枚使っても、何時間電話を繋いでも語り尽くせないようなあれこれを、一から全部聞いて欲しい。そう思っています。

それじゃあ、昨日は本当にありがとう。
いろいろと心配は尽きないけれど、今日もまたぐっすり眠れそうです。
おやすみ。

月森 孝介
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ