往復書簡
□往復書簡
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テレビの中に別の世界があると言ったら、
信じてくれますか。
俺はそこに入れると言ったら?
それで魔物と戦っていると言ったら?
連続殺人犯の凶器はその世界なんだと言ったら?
…ありえないね。
こうやって、文字にしてみると良く分かる。
信じてもらえるわけがない。
それでも全部、本当のことなんだ。
テレビに手をつくと、飲み込まれる。
誰でもじゃない。
ペルソナっていう能力を持ってる人間だけ。
俺にはどうも才能があったらしくて、稲羽に来てすぐ、引き寄せられるみたいに落ちかけた。
テレビが小さかったから助かった、って冗談みたいな話で。だから今でも、向こうに行く時はジュネスの大型テレビを使うんだ。
クマとは、あちら側で出会った。
もともと向こうの住人で、「外国人」どころじゃない。初めはヒトですらなかった。
あっちの世界と殺人事件の関係に気づいたのは陽介。
犯人はおそらく能力者。マヨナカテレビに映った人を、その力でテレビに落としてる。
落とされた人は、霧におおわれた世界で、やがてむき出しの、自分の本音に殺される。
あちらはそういうところ。
内面の闇が形になって人を襲う。
そしてペルソナとは、心を御する力。
自分の影に飲み込まれることなく、むしろ受け入れることが出来たとき、その力を得る。
冗談にしか聞こえないだろうけど、これが俺の秘密。
稲羽でしてきたこと。一番大切なこと。
マヨナカテレビの被害者を救うこと、犯人を追うこと。
俺たちにしか、出来ないこと。
叔父には信じてもらえなかった。
分かってるんだ、仕方のないことだって。
お互いまっすぐに思っていても、埋められない距離もある。
それでも、これは本当。
そして、この力があったから、積み重ねた経験があったから、今回菜々子を助けることができた。
今度こそ、犯人も捕まえることができた。
やるべきことはやった。
だから、あとは信じて待つしかない。
それだって分かってる。
分かってるんだ。
いつも手紙をありがとう。
初めての時も、今も、俺がどんなに救われてるか、嬉しいと思ってるか。
君にどれだけ伝わってるのかな。
月森 孝介