往復書簡

□往復書簡
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月森孝介さま

この国の古い名前、秋津洲(あきつしま)の"秋津"はトンボのことなんだって。
古事記の本に書いてあった。

さて、そんな由緒正しいトンボたちが運んできてくれた手紙、読んだのは10日の夜でした。
なので、残念ながらベーシスト月森くんにエールを送ること叶わず。

でも、ライブは大盛り上がりだったみたいで何よりでした。あんなに取り乱してたのに、すごいねぇ。
何にでも飛び込む勇気と何でもこなす器用さが月森くんだなと、最近は思ってます。大役お疲れさま!

それにしても、最後はダイブですかー。
やっちゃったねー。若者だねー。
怪我が心配だけど、まぁ男三人飛んできたら、お客さんも避けるしかないよね…。

なんで知ってるかって?
ふふふふふ。

私ね、気づいたの…。月森くんを思いながら栞メガネをこうかざすと、その向こうになんと稲羽の山々が―――!
というのはもちろん冗談で、千里眼の正体はクラスのりせちーファンの男の子です。何度か書いたことあるよね。

もしかしてと思って聞いてみたら、話してくれること立て板に水のごとし。
行ってきたってことはもう大前提で、突発のイベントだったことも小旅行に近い距離も彼にとっては何ひとつ問題じゃなかったみたい。
休業中の今、姿が見られるならどこにだって行く!行かない理由がない!って、ものすごく熱かった。

ベースを弾いてるのが元同級生だってことには気づかなかった模様。
というか、ほとんどりせちーのことしか見てなかったようです。や、当然なんだけど。
ナチュラルメイクに制服のレアすぎるビジュアルもシンプルな演奏で際立つ生歌も良かった、行ったかいがあったって、満面の笑みでした。

私も学ランでベースを構える月森くん見たかったなー。
もっとも、事前に情報を掴んだところで彼のようには動けないだろうから、まるっきり口だけなんだけど。
いやほんと、追っかけの人たちの情熱とネットワークはすごい。

今、彼が(半ば強引に)貸してくれたCDを聞きながらこれを書いてます。
True Storyって結構本格的なバンドサウンドなんだね。キュートなボーカルとのギャップがいい!と貸主が言ってたけど、私もそう思う。

ところで、報告が遅くなりましたが、本日の生徒会選挙、おかげさまで無事に信任を得ることができました。
ライブの話でいい方に気がそれて、リラックスして総会に臨めたのがよかった。
新委員長として、とりあえず後期の購入本に弱虫先生シリーズをねじ込もうと思います。職権乱用!

前の手紙を送った後から、こちらも一気に秋になってます。
学校の中庭の金木犀を覚えてる?今年もこぼれんばかりに花がついて、あたり一帯いい匂いに包まれてます。

健康診断を受けてきたっていう話、安心どころか逆に心配になったけど、実は私もそんなに不安は感じてないです。
何の根拠もないけど、もうずっとずっと、来年月森くんに会うってことは当たり前だと思ってるから。
予感を信じて、とにかく待ってます。くれぐれも気をつけて。

ときに月森くん。
単純な興味で聞きますが、彼女っている?

宮本美織
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