往復書簡
□往復書簡
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宮本 美織 様
トンボの便せんでこんにちは、月森です。
稲羽は山あいの町で、場所によっては田んぼの向こうに一直線に山が見えたりするんだ。
群れになって飛ぶ赤トンボ。
山に落ちる夕日、風にうねる稲穂。
たまらなく懐かしくなるよ。ここで生まれたわけでも、育ったわけでもないのに。
なんて、少々感傷的になるくらいには、こちらは秋です。
相変わらずの霧のせいで湿気がひどいけど、それでも高い空を見ていると、まっすぐな農道をむやみに駆けて行きたくなる。
実際走っていくのはクマあたりだろうけど。
猫のこと、いつも通り飾らない答えをありがとう。
悩んでるのは俺じゃなくて町の知り合いなんだ。
極度の猫恐怖症なのに、婚約した人が超がつくほどの猫好きだったとかで「克服するしかないじゃないか!」って言いながら、震えてた。
それほど一緒にいたい人とそこまで価値観が合わないって、大変だろうなあと思って、単純な興味で聞きました。
俺はたぶん猫好き。
確信持ててないあたり、似た者同士かな?
あ、弱虫先生は好き。いいよね、読むと優しい気持ちになる。自分は弱虫だって知ってる、弱虫先生の強さ。
次の「転職する」も面白いので、是非。
栞、どんどん使ってやって。
そうやって宮本さんがレンズの向こうに俺たちを見てくれてるって思うと、なんというか、俺自身も俺を見失わずにいられる気がする。
そう、直斗(=探偵王子)の指摘は正しかった。
俺たちはもう一度マヨナカテレビに向き合わないといけない。今度こそ事件を解決するために。
また心配かけちゃうね。
でも、俺はそんなに不安はないんだ。
仲間は口々に「ここからが正念場だ」って言うんだけど、俺は、みんなとならなんとかなる気がしてる。
また一歩ずつ、ただ一歩ずつ、進んで行けばいいんだ。
いつも抽象的な話でごめん。
そうだ、これは客観的な安心材料になるかな?
今日、直斗のすすめで健康診断を受けてきました。
全員まったく何事もなく健康。何かあってもおかしくないと思ってたから、良かったよ。
さて、いよいよ選挙だね。
明日投函すれば当日までには届くかな。
応援してる。
いい知らせを待ってます。
月森 孝介
追伸
大変なことになった。
つぶれたイベントの穴埋めに、りせがライブをすることになって、俺、まさかの、ベース担当…。
今日初めて触ったのに、どうにかなると思う?
というか一日でもう指が壊れそう。
この上明後日本番とか、マジかよ、冗談だろ。
陽介のためじゃなかったらこんな…。
ああー、まさか宮本さんの選挙より先に、俺が試練をくぐることになるとは。
もしこれ10日までに届いたら、遠くからでも応援してほしい…です。