往復書簡

□往復書簡
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月森孝介さま

昨日、最後のバイトでした。

夏休みも終わりが近づいて、クシの歯が欠けるみたいにだんだん仲間が減っていって、寂しさを感じていた私自身もとうとうお別れ。
ひと月本当に早かったなぁ。

あんまり忙しかったからか、ところどころ記憶がアイマイになってるくらいで、なんかもうすでに色んなことがあやふや。
毎日あんなに濃厚で、面白いことも、腹の立つことも、嬉しいことも悲しいこともたくさんあったのに。

今はただ、夢から醒めたみたいにぼんやりと、いい経験だったって、そう思ってる。
飛び込んでみて良かった。ありがとう。きっかけをくれて。

それで、あのね、月森くん。
私の秘密の話、聞いて。

月森くんたちがお祭りに行ったっていう日、私もバイトの皆と出かけたの。最後に思い出作ろうって、仕事の後、お隣のデスティニーシーに。

そこで、生まれて初めて、告白、された。
一緒に仕事してた、同い年の男の子に。

接客が天職みたいな朗らかな人で、その日の企画と幹事もしてくれてて、夏のバイト生の中で一番の人気者。
そんな人が、今にも泣きそうな眉毛で、かちこちになって、言ってくれた。

なのに私、たぶん、すごく拒否する感じで断ったの。
あんまりびっくりして、問題と答えが頭の中で一気につながって、そのままの勢いで口から出ちゃったから。

だってね、仕事の話しかしたことないんだよ。
私が彼のこと知らないのと同じくらい、彼も私のこと知らないはずなのに、何をそんなに慕わしく思ってくれたのか、全然わからない。

それに何より、私、このバイトでは結局よそゆきの仮面を外せなかった。楽しかったけど、ぴったりははまらなくて、あそこにいた私はあんまり私らしくなくて。だから、好きになってくれても、それは私じゃないんだよ。

好きってなんなんだろう。
あの人は、私の何を見てたんだろう。
"重なる"ところのない人だって、私はそう思ってたんだけどな。

ただ、尊敬できる人だったから、もう少しきちんと返事ができたら良かったなって、自己嫌悪の夏の終わりです。
シンデレラみたいな劇的な恋なんて、美織姫にはできないみたい。

月森くんもバイトお疲れさま。

クマさんが金髪碧眼って、今までで一番信じられない話かも。こっちの繁華街でも、それこそデスティニーランドでも、なかなかそんな人見ないよ?
あーでも、町中に鍛治屋さんがあるんだから、ある意味テーマパークみたいなところなのかな、稲羽。

面白がりすぎ?

宮本美織
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