往復書簡

□往復書簡
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宮本 美織 様

美織姫、お盆は無事乗りきれましたか?
なんだか今さら感のある返信になっちゃってごめん。
実は俺も、今週月曜から昨日までバイトに駆り出されてました。どうしても人手が足りないって陽介に泣きつかれて、炎天下のジュネスフードコートでみっちり五日間。
あ、陽介は花村です。

お客さんが全然とぎれなくて、案内して売り込んで片付けて、の終わらない繰り返し。笑顔貼りつけてすぐ溶けるかき氷削りながら、宮本さんの仕事もこんな感じかなーって考えてました。
接客はやっぱり神経使う。
面白いし、陽介の力になれるのはいいんだけど、正直マヨナカテレビの時より疲れた…。

あの事件も、ついに立件されたね。
こんな風に他人事みたいに言うのは、なんだか変な感じがするけれど。
それがちょうどこの間の手紙が届いた日で、食卓を囲んでニュースを見ながら、菜々子に「安心していいぞ」って言う叔父を見た時、ああ本当に終わったんだって思った。

手紙に書いてくれたこと、ありがとう。

読んだあと、確かに俺は“からっぽ”じゃないのかもって思った。
それが「何もない」って意味なら、相応しいのは犯人の彼の方だったって、そう思えたから。

俺と彼は違う。

占い師の目に俺が“からっぽ”に見えて、俺もそれを納得してしまったことの理由は、俺が、俺自身を満たしているものがなんなのか、全然分かってなかったってとこにあるのかも知れない。

俺、稲羽でいろんな人と話して、絆を深めて、その人からもらうもので自分を埋めるんだって思ってたけど、そうじゃなかったのかも。
相手と自分の"重なる"ところを見つけながら、もともとそれを持ってたってことを確認して回ってるんじゃないかって、今はそんな気がしています。

ところで、クマのイラスト、笑ったよ。
あ、気を悪くしないで。

なんていうのかな、当たらずと言えども遠からず?
クマには似てないんだけど、別の人に似てて、ちょっと驚いた。

実際のクマは、なんと金髪碧眼の美少年です。
ホントに。

彼はジュネスで着ぐるみマスコットの中の人をやっていて、そっちの姿が「クマ」の由来。
ただし、それだって、ひっくり返した卵に手と足と耳つけたみたいな形で、どう見てもクマじゃないんだけどね。赤青白のアメリカンな配色だし。

で、イラストに似ている人は、町の商店街に店を構えている鍛冶屋(!)のオジサン。向こう傷とねじり鉢巻が勇ましい、アートなお方です。
もし俺たちと年が近くて仲間だったら、イラストみたいな感じだったんじゃないかな。想像すると可笑しい。

これから仲間たちと神社の夏祭りに行ってきます。
ヒグラシが鳴いてる。
夏休みも、もう終盤だね。

月森 孝介
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