往復書簡

□往復書簡
19ページ/53ページ

月森孝介さま

期末テストお疲れさまでした、トマト王子。
夏休み、いかがお過ごしですか?

美織姫は、いよいよ本格的に、皿とコップの片付けに明け暮れています。呼ばれれば水も注ぎます。床も拭きます。
うーん、全然姫じゃない!

シフトは毎週土〜水。
一昨日初めての五連勤を終えて、昨日はまた泥のように眠っていました。
夢も見ず、ごはんも忘れて、はっと起きたのが六時。それが夕方なのか朝なのか分からなくて、一瞬浦島太郎の気分でした。(朝だったよ)

月森くんが気にかけてくれた通り、本当に、毎日いろんなことが起きてます。

一番びっくりしたのは、二日目でいきなり四人も辞めたこと。しかもそれ、別に珍しくもないんだって。
高校生のアルバイトだと、私みたいに一人で応募するのは珍しくて、普通は入るのも辞めるのも、オトモダチと一緒になりがちなんだとか。
そうなってしまうの、分からないでもないけれど、同じ若者としてちょっと考えさせられる出来事でした。

まだまだ慣れないし、久しぶりに向き合う自分のオッチョコチョイっぷりにため息つきたくなったりするけど、毎日楽しいです。

体で仕事を覚えるのも、ほっぺがつるくらい笑顔でいるのも、怒られるのも誉められるのも、なんかみーんな新しい。
大げさだけど、生きてる!って感じがする。
もうずっと、慣れきって分かりきった学生生活しかしてなかったからなぁ。

あと四週間のシフトが、長いようで短くて、やりきったぞって胸張って終わるためには、一日も無駄にできないなって思います。
今年の月森くんがドンヨクなのは、きっとこういうことが理由なんだって、分かった気がする今日この頃です。

学校のこと、稲羽のこと、いろいろ教えてくれてありがとう。
板張りの廊下にたたずむ、学ランに黒ぶちメガネの月森くんが目に浮かびます。なんでか分からないけど、夕暮れのイメージで、オレンジ色の光をうけて。
この目で見ていた図書室の月森くんは、もうすっかり思い出の人になっちゃったなー。

栞もありがとう。
さっそく愛用しています。

そばで手を貸すことができないのに、もらってしまっていいものか、少し悩んだけど、ありがたく頂くことにしました。
待つことが仕事のメンバーが、いたっていいのかなって思って。
なんか、メガネ職人さんまでいるみたいだし。

ところで、なんでメガネが仲間の証なの?

宮本美織
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ