往復書簡
□往復書簡
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宮本 美織 様
雨があがったら、急に暑くなりました。
ちょっと走り回っただけで汗まみれになって、しおれた学ランに風を通しています。
試験中だし、こんなにすぐ返事が来ると思っていなかったので、お断りをもらうのかとドキドキしました。
文通続けること、オッケーしてくれてありがとう。
図書室のあの席は、冬場とても暖かいですよ。おすすめします。
お察しの通り、こちらに来てから、放課後は部活やバイトが中心で、たいてい誰かに会っています。
読書は夜、自分の部屋で落ち着けるときにしていて、少しせわしないですが、それもいいかなと思っています。
稲羽に来てすぐ、ある人に言われました。
今年は俺の節目の年だって。
占い程度のものだと考えていたんですが、どうも違うようです。
いろんな人と関わることが乗り切る力になるそうなので、今年は人との縁を大事にしようと頑張ってみています。
宮本さんとのご縁も、掴めたかな…?
ちょっとペンを置いて、夕飯を食べたりしてきました。
そうそう、菜々子への小さな封筒もありがとう。すごく喜んでいました。
どうも菜々子は、俺が最初の手紙の返事を茶封筒で出したことを気にしてたみたいです。
あれ、実は手作り(内職のバイトで作ったもの)だったんですが…。うーん、言い訳にはならないですね。
今回からは、ちゃんと用意した便せんと封筒です。確かにジュネスは、何でも揃います。
ところで宮本さん、「マヨナカテレビ」の噂ってそちらでも聞きますか?
雨の午前零時に消えてるテレビをひとりで見ると…っていうもので、稲羽では一部でちょっと騒がれています。
運命の人が映るっていう触れ込みなんですが、複数の人が同じものを見ていることや、内容からして、俺や友人たちはもっと悪質なものだと考えています。
できるなら、やめさせたい。
叔父は、俺の部屋にテレビを入れておいてくれました。
いま、降り出した雨と時計の針の音を聞きながら、これを書いています。
何も映らなければいいと思いながら、映るに違いないと、期待している自分もいます。
電話をかけてきた友人の心配そうな声に、少し罪悪感を感じました。
まもなく零時です。
次の返信は、少し遅くなるかも知れません。あらかじめ断っておきます。
でも、必ず書きます。
月森孝介