Hermit短編
□プリンパ!
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綺麗な毛並みの背中を丸めて、ツネさんが私の腕の中にいる。
ため息に沈む肩、力なく投げ出された前足。
いつもは表情豊かな尻尾もだらりと垂らして、もし今日の探索に完二くんがいたら「いつまでも不貞腐れてんじゃねえぞコラァ!」とか、どやされてしまいそうだ。
サウナなダンジョンの真ん中で、ツネさん、ご機嫌斜めである。
「うひょー、ユキチャーン! チエチャーン! キョーチャーン!」
薄く視界をふさぐ湯気の向こうから、カラリと明るい声がした。
「あれっ、なんでそっちから来るの? 行き止まりじゃなかった?」
「そんなことないクマよ。ちゃんとつながってるクマ! ユキチャンたち、もしかして迷子?」
「ち、違うよ!」
「あああ、やっぱマップつけるのは杏子が適任だよねえー」
手書きの地図を片手に首をかしげる雪子と、それをのぞこうと体を伸ばすクマきちさん。
わけあって頭を抱えてこちらを見る千枝に対し、私の両手をふさぐツネさんは、ツーンと音がしそうなほど勢いよく鼻を反らせる。
「おおっ? 抱っこで移動なんて贅沢してんなあ、ツネきち」
「キツネ、どうかしたのか?」
軽やかな口ぶりと足どりで現れた花村くんが、ツネさんの頭を撫でようとして唸られる。
続く鳴上くんには許したものの、それでも渋々といった感じだ。
「具合悪いのか? 今日乗り気じゃなかったもんな」
ぐっとしゃがみこみ目線を合わせて語りかけるリーダーは、とても申し訳なさそうにしている。その様子に、三角の耳の先がピクリと反応した。
「違うんだよね、ツネさん」
鳴上くんのせいじゃないと言うのを、あやすように抱え直しながら代弁する。
「ちょっと、事故っていうか……」
「そ、それについてはあたしが!」
右の手刀を差し込むように、空間を切り開いて千枝が間に入った。
説明の言葉を選ぶひと呼吸。
事情を知る雪子の思い出し大爆笑が、すでに始まっている。